サイドストーリー 桜色
⁂1(1) 選択肢
物心付く頃には、
私から話し掛けたという事だが、三歳やそこらの時の事なので当然覚えてはいない。とはいえ、楓から話し掛けてくる光景はちょっと想像出来ないため、多分間違いないだろう。
昔の楓は、引っ込み
しかし、年齢を重ねていく内に楓はそれを改善させていき、五年生になるとむしろクラスの中心に立ち色々な人から頼りにされるような存在になっていた。
私は私で楓とは違う意味でクラスの中心に立ち、そのせいで私達が校内で話す事は次第に少なくなっていった。それぞれの周りに集まる生徒のタイプが正反対で、両者の
もちろん話さなくなった理由の一つに私の個人的な気持ちの変化も当然あったのだが、ここでは
中学に上がると、学校が変わった事もあり私達は更に校内で話さなくなった。全然
結局一番落ち着くのは楓の隣、多分向こうもそう思っている事だろう。
だから、私達の今の関係はいつまで
私達のクラスに転校してきた
そんな彼女といつも一人で本を読んでいるような
二人は本当に仲が良かった。周りの目を気にして初めは無関係を
ひとえに仲がいいと言っても、その種類は千差万別、色々とある。腐れ縁、家族のよう、姉妹みたい、友達、親友、そして……。
二人の仲の良さが特別なものなのかもしてないと感じ始めたのは、文化祭の準備が始まってから。私が仕掛けた事もあって関係をオープンにした二人は、誤解を恐れず言うならば常にいちゃついていた。いや、別に何か変わった行動を取っているわけではないのだが、傍から見たら丸っきりそうにしか見えないのだ。二人の間に特別な空気が流れているとでも言えばいいのだろうか。とにかく、
そして、私は気付いてしまった。こういう関係は、何も遠い世界にだけ存在する特殊なものではないという事に。
よく世界が開けたみたいな表現をするが、まさにそんな感じだった。今まで考えてもみなかった
「――
名前を呼ばれ、我に返る。
私の前には楓が座っており、その顔には心配そうな表情が浮かんでいた。
場所はいつもの喫茶店。現在、私と楓はテーブルを挟んで向かい合って座っている。
最近こういう事が増えた。美咲ちゃんに友達が出来た事を
「大丈夫?」
「え? 何が?」
「いや、ぼっとしてたから」
まぁ確かに、一緒に喫茶店に来て片方がぼっとしていたら心配にもなるか。
「少し考え事をしてて」
だから私は、正直にその理由を話す。
「考え事って、どんな?」
「……」
言えない。楓の事を考えていたなんて、口が裂けても。
ハロウィンパーティの翌週、私達は約束通りデートをした。動物園は楽しかったし、それなりに盛り上がった。けれど、だからと言って私達の関係に大きな変化があったかと言うと、決してそうではなかった。多少変わったかもしれないが、それは
「今度クリスマスパーティがあるじゃない? そのプレゼント何にしようかなって」
なので、私は
とはいえ、その事で悩んでいたのは本当なので、全くの嘘というわけでもないのだが。
「桜、意外と
そんな私の思考を知ってか知らずか、楓は私の話にすんなり乗っかってきた。
分かっていてあえて合わせてくれている可能性もあるが、それならそれで
「意外って何よ。私はいつも気遣い屋さんでしょ?」
「でも、みんなの前ではそう見えないように振る舞ってるじゃない?」
「……」
図星だった。まぁ、十数年来の幼なじみにバレていないわけがないんだけど。
「目星は付けてるの?」
「一応、候補は何点か。ただ、誰に当たるか分からないから、
その
プレゼントは、パーティ参加者にランダムで渡るようになっている。円になってプレゼントを横の人に回していって、適当なところでそれを止める。その時手に持っていた物を、プレゼントとして受け取るというシステムになっている。
ちなみに、パーティ参加者は、
「楓はもう決めたの?」
「まぁね。桜と違って私は、無難な物を選ばせてもらったけど」
楓はこう見えて思い切りがいい。プレゼントを渡す渡さないで悩む事はあっても、その物自体で悩む事はあまりない。それでいて的確な物を選ぶので、ホントズルい。
「一緒に考えてあげようか?」
その申し出は、非常に魅力的だった。しかし、当日までお互いのプレゼントは秘密というのが、みんなで決めたルールだ。そこが崩れてしまったら
「んー。止めとく。まだ時間あるし自分で考える」
「そっか。
頑張れ? 果たして、こういう時のプレゼント選びとは頑張るものなのだろうか? 頭を悩ますという意味では、頑張っているとも言えなくもないが……。
「ねぇ、楓」
「ん?」
「イブって何してる?」
「何? 急に」
「いや別に、深い意味はないんだけど」
逆に、この場合の深い意味ってなんだ?
落ち着け。落ち着け、私。平常心。平常心だ。とりあえず、深呼吸を一つして……。
楓にバレないように息を小さく吐く。
お
「特に予定はないけど……。家で夜にケーキを食べるくらい?」
私の言葉に不自然さを感じたのか、楓が探るような視線をこちらに向けてくる。
無理もない。私自身、やってしまった自覚があるのだから。
もうこうなってしまったら仕方ない。出たとこ勝負、当たって砕けろの精神で行くしかない。
「イブに私とイルミ見に行かない?」
声が震えないように気を付け、私はそう楓に提案する。
「イルミってイルミネーションの事? いいけど、わざわざイブに必要ある?」
「イブの方がほら、ロマンチックじゃない? なんとなく」
「ロマンチックねー。まぁ、
「ホント? じゃあ――」
それから私達は、当日に向けての打ち合わせをした。
これで状況は整った。後は当日を
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