おまけ

SS7 答え合わせ

「ガトーショコラ?」


 ふたを開け、中を確認したソフィアちゃんが、そう声をあげる。


「そう。折角だから少し豪華な物にしたくて」


 という事で、お母さんの意見を採用し、バレンタインのチョコレートはケーキにしてみた。

 その結果、それなりに見栄みばえのいい物が出来た――と自分では思っている。


「えっ? 凄い。こんなの出来るんだ」

「そんな、凄くないよ。少し練習したら、ソフィアちゃんだって出来るって」


 喜んでくれるのは嬉しいけど、められ過ぎるとなんだか気恥ずかしくなってくる。


「じゃあ、今度作り方教えて」

「うん。一緒に作ろ」


 料理は何度も一緒に作っているが、お菓子はまだ一緒に作った事はない。


 二人でお菓子作り。きっと、ううん。絶対楽しいに決まっている。


「じゃあ、私からも」


 箱を脇に置いて、ソフィアちゃんが鞄から袋を取り出す。


 透明なそれの中には、生チョコが入っていた。と言っても、三人に渡した友チョコとは見るからに物が違う。いわゆる、特別仕様というやつだ。


「一応、本命チョコ……。貰ってくれる?」


 こちらをうかがうように少し上目づかい気味に、ソフィアちゃんが袋を私の方に差し出してくる。可愛い。


「えー、一応なの?」


 その様子を見て、私の中に悪戯いたずら心がふいにき上がってくる。


「それは、その言葉のあやというかなんというか……」

「ウソウソ。がた頂戴ちょうだいします」


 そう言って私は、袋を丁重に受け取り、中を見やる。


 生チョコはハートの形をしており、友チョコの物よりも二回りぐらい大きかった。

 さすが本命、形も大きさもけた違いだ。


「味は、汐里しおりさんにみてもらったから、問題ないと思うけど」

「あ、やっぱりお母さんに教えてもらったんだ」


 理由もなく、あのタイミングでお母さんがチョコレートを作るわけがない。お母さんにその理由がなければ、あるのは他の誰かの方。つまり、教えをう側、ソフィアちゃんの方に要因があったというわけだ。


 多分そうじゃないかとは思っていたが、ここでようやく正式に答え合わせが出来た。


「もしかして、バレてた?」

「うん。家に帰ったら甘い匂いしたし、さすがにね」


 態度や表情からは何も見て取れなかったため、あれさえなかったら、今日の今日まで普通に気付かなかったと思う。


「そっか。こっそりやったつもりだったんだけど、バレてたか」

「お母さんがあのタイミングでバレンタインチョコを作るなんて、不自然極まりないからね」

「……そこまで頭が回らなかったわ。後、匂いも」


 お菓子、特にチョコレートを使った物を作る時は、匂いが結構な間残るので注意が必要だ。しかし、お菓子を作った経験のないソフィアちゃんには、その辺りの事がピンと来なかったのだろう。もしかしたら、美玲さんもあまりお菓子を作るタイプではなかったのかもしれない。だとしたら、余計にソフィアちゃんが気付かなくても仕方がない。

 まぁ、そこは私の勝手な憶測なんだけど。


 お母さんは……多分普通にうっかりしていただけだと思う。なんて言っても、お母さんだし。


「サプライズって、なかなか上手く行かないものね」

「私はソフィアちゃんが手作りしてくれたってだけでも、充分うれしいけど」

「なら、良しとしましょ」


 まし顔でそんな事を言うソフィアちゃんに対し、私は笑いをみ殺す。


「何よ」

「ううん。可愛いなって思って」

「馬鹿にしてる?」

「してないしてない」


 馬鹿にはしていない。ただ可愛いという言葉に含みがあるのは事実なので、からかっているかと聞かれたら私はイエスと答えるか黙秘するしかなくなる。


「まぁ、いいわ。とりあえず、お昼にしましょ。大分時間過ぎちゃってるし」


 ソフィアちゃんの言うようになんやかんやしている内に昼休みも十五分近くが経過、まだまだ時間があるとはいえそろそろ食べ始めないと最悪弁当をかき込む羽目になりそうだ。


 鞄から弁当箱を取り出し、包みと蓋を開く。


「いただきます」


 手を合わせ、はしを取る。そしてそれでつくねを口に運ぶ。


 うん。いつも通り美味しい。


「ねぇ、いお」

「ん?」


 呼ばれソフィアちゃんの方に顔を向けると、箸で掴んだチキンがこちらに向かって差し出されていた。


「あーん」


 なるほど。そういう事か。


「あーん」


 開いた口にチキンが入れられる。


 うーん。美味しい。けど、味が少し変わって……。


「ソフィアちゃん、もしかしてこれ……」

「そう。バレンタインぽくていいでしょ。これも汐里さんに教えてもらったの」


 確かにこの味付けは、今日の日にこそ相応ふさわしい、まさにバレンタイン仕様と言うべきものだった。

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