第12話(1) バレンタイン
バレンタインのチョコレートには、本命チョコの他に義理チョコや友チョコという物が存在して、人によってはそちらの方がメインという人もいるとかいないとか……。
「はい。ハッピーバレンタイン」
席に着いて少しすると、木野さんが私達の元にやってきて、私とソフィアちゃんの前にそれぞれ小さく透明な袋を差し出してきた。
「ありがとう」
受け取り、袋の中身に目をやる。
中には、ハート型の小さなチョコレートが二つ入っていた。
非常に可愛らしく、木野さんにぴったりだとなんとなく思った。
「じゃあ、私からも」
お返しに、私も鞄からクッキーの入った袋を取り出し、それを木野さんに渡す。
「わぁー、クッキーだ。美味しそう。大事に食べるね」
「大事にしてくれるのはいいけど、手作りだから数日中には食べてね」
市販の物ならともかく素人の作った物なので、どれだけ遅くても四日以内には食べてもらいたい。それ以上となると、ちょっと色々な意味で保証は出来ない。
「木野さん」
「ん? なぁに?」
ソフィアちゃんに呼ばれ、木野さんがそう応える。
「これ……」
意を決したように、ソフィアちゃんが袋に入った何かを木野さんに向かって差し出す。
「早坂さんもくれるの? ありがとう」
ソフィアちゃんからお返しが貰えるとは思っていなかったのか、木野さんが少し驚いた顔をしてからそれを受け取る。
中身は、正方形の生チョコのようだ。自分で作ったのだろうか。
にしても、生チョコか……。私が菊池先輩に作り方を教えたのと同じ物のようだけど、たまたま? あるいは――
「じゃあね」
手を振り去っていく木野さんを、私も手を振り返し見送る。
「ソフィアちゃんも用意してたんだ、友チョコ」
「いおが言ったんじゃない。女子の間ではそういう文化があるって」
「そうだっけ?」
最近はむしろ意識をし過ぎてバレンタインの話題は避けてきたから、言ったとしたら秋以前の事だろう。
その後、秋元さんと松嶋さんがやってきて、同じようにチョコを交換した。
秋元さんからは市販の物を、松嶋さんからは手作りの物を貰った。秋元さん曰く、お菓子作りはどうも苦手らしい。
まぁ、手作りでないといけないなんて事はないので、別にいいんだけど。
というわけで、貰った友チョコは三つ。
念には念を入れてお返しを十個持ってきたのだが、さすがに用意が良過ぎたようだ。
友チョコ交換も一段落。という事で、私はようやく机の中に授業で使用する物を入れていく。教科書に、ノート、ワークに、資料集、後は筆箱……。
「ん?」
その途中、ふいに違和感を覚える。
中に、何かがある。
左側には物が入ったが、右側には何かが
手を突っ込み、それを引きずり出す。
小箱だった。赤い箱に、黄色のリボンが結ばれている。更にそこには、二つ折りにされた白い紙が挟まれており……。
まさか、本命チョコ!? ――なんて、そんなわけないか。誰かのイタズラ、あるいはサプライズといったところか。前者はともかく、後者の場合でも誰が犯人か全く見当が付かない。
とりあえずこれは、置いておいて後で確認しよう。今ここで手紙を読むのは、なんだか違う気もするし。
周りに気付かれないように、こっそり小箱を鞄にしまう。そして、何気なく辺りを見渡す。
誰にも見られてないよね。
「ねぇ、今の何?」
「……」
背後から声を掛けられ、私はゆっくりそちらを向く。
誰にもと言ったが、ソフィアちゃんは別だ。後ろの席だし、隠すのは不可能に近い。
「分かんない。なんか机の中に入ってた」
「本命?」
「なわけないでしょ」
ソフィアちゃんの冗談に、私は苦笑を浮かべそう返す。
「そんなの分からないじゃない。いお可愛いし」
「いやいや」
可愛いって言ってもレベルやベクトルが違うから。私の場合、マニア受けするとかそういうやつだろう。一部の層には刺さる的な? ……だとしたら、可能性はあるのか。いや、でも、うーん……。
「何も書かれてなかったの?
「手紙、はあった。けど、まだ中は見てない」
「そう。じゃあ、それを見たら、何か分かるかもしれないのね」
「うん……」
一体誰がこれを私に?
こうして私は、昼休みまで
にしても、この展開以前にもあったような……。確か、文化祭の直後に……。あっ。もしかして……。
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