第11話(1) チョコレート
二月、二週目の日曜日。私はバイト終わりに、菊池先輩の運転する車で彼女の家に向かう。
菊池先輩の住むマンションは、
もしかしたら、その辺りもここを選んだ理由の一つだったのかもしれない。
外壁は濃いグレー。四階建てのその建物は、色合いも
ソフィアちゃんのせいで価値観がバグりそうになっているが、本来学生の一人暮らしとはこうあるべきだろう(偏見)。
車を降りると、菊池先輩を
階
どうやら、ここが菊池先輩の部屋らしい。
鍵を開け、菊池先輩が扉を開く。
「どうぞー」
先に入った菊池先輩が、そう言って私を
「お邪魔しまーす」
その後に私も、そろりと続いた。
靴を脱ぎ、段差を上がる。
いわゆる玄関というものは存在しておらず、
「上着貸して。掛けるから」
「あ、すみません。お願いします」
菊池先輩がそれをポールハンガーに掛けているのを横目に、私はさり気なく室内を見渡す。
ダイニングキッチンにある調度品はどれも落ち着いたデザインの物で統一されており、良く言えば古風、悪く言えば古臭い印象を受ける。勝手ながら、私が菊池先輩に抱いていたイメージと、室内のこの感じはかなりの差があった。
「地味でしょ」
上着を掛け終えた菊池先輩が、私の心情を読み取りそう尋ねてくる。
「いえ、そんな……」
「けど、ちょっと意外ではありました。その、菊池先輩のイメージと少し違ったので」
「だよねー。私もそう思う」
そう言って菊池先輩は、あははと笑う。
どうやら、自覚はあるようだ。
「じゃあ、どうして?」
「うーん。デザインというより、安さで選んだらこうなったって感じ? まぁ、卒業したらどうせ引っ越すし、別にいいかなって」
誰と? と聞く必要はなかった。はにかむ菊池先輩の顔が、その相手を
「おめでとうございます」
「別に、結婚するわけじゃないから」
私の言葉に苦笑いを浮かべながらも、菊池先輩の表情はどこか
「あ、ごめんね。ずっと立たせてて。座って座って」
「はい。じゃあ」
言われるまま、私はテーブルに着く。
菊池先輩は、リモコンで暖房を付けてからキッチンへと向かった。
ちなみに、エアコンはもう一つの部屋の方に付いており、その部屋とダイニングキッチンはパーテンションが開け放たれている事によって、なんの
「飲み物、何がいい? 紅茶、コーヒー、緑茶の三択なんだけど」
「えーっと、なら、紅茶で」
正直どれでも良かったが、選ばない方が失礼に当たる気がして、急ぎその中の一つを選ぶ。
「了解。ちょっと待っててね」
菊池先輩が飲み物を準備している間、私は改めて室内に目をやる。
もう一つの部屋はほぼ間違いなく、菊池先輩のプライベートルーム兼寝室だろう。角度的に良く見えないが、なんとなくシンプルながらお
「お待たせ」
そう言って菊池先輩が、お
「ありがとうございます」
お礼を言い、私は軽く頭を下げる。
「
それに対し菊池先輩は、私の正面に座りながら、
もちろん、冗談だ。
「いただきます」
鉄は熱い内に打てではないが、折角入れてくれた紅茶を冷ましてしまっては
というわけで私は、湯気の立ち昇るそれを、一度息を吹き掛けてから口に運ぶ。
熱い、苦い、しかし仄かに甘さもある。つまり――
「
いわゆるスーパーで売っている物とは味が違う、気がする。
私自身そんなに詳しいわけではないので、本当になんとなくそう思う程度の感想なのだが。
「ホント? 良かった。私も気に入ってるんだ、ここのお茶」
「どこの物なんです?」
値段にもよるが、それ程高くないなら一度
「えっと、シュガー&ハニーってお店。私は
「ありがとうございます」
家に帰ったら早速見てみよう。お手軽な値段だといいんだけど。
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