第5話(2) 予定
「水瀬さんは、やっぱりクリスマスは例のあの子と過ごすの?」
バイト終わり、更衣室で帰る準備をしていると、ふいに同じく帰る準備をしていた菊池先輩がそんな事を私に聞いてきた。
「え? あ、はい。その予定、ですけど……」
クリスマスというより、私達の場合イブが本番といった感じなのだが、多分そこは気にするところではないだろう。
「お店、それともおウチ?」
「夕方にイルミネーション見て、その後は相手の家に」
「へー。楽しそう。いいなー」
えーっと、これはアレかな。こちらからも同じ質問を返すのが
「菊池先輩もクリスマスは恋人と過ごすんですか?」
「うん!」
よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりの声と表情で、菊池先輩がそう力強く
やはり、質問待ちだったらしい。
「今年はまだ分かんないけど、去年は私達も水瀬さん達と同じ感じだったかな。イルミネーション見て、おウチデート、みたいな?」
「去年はイルミネーション、どこに見に行ったんですか?」
「
「そんなに」
浅尾大通とは、中央分離帯の中にある公園も含めた横幅が百メートル以上ある大規模な道路の事で、公園内にはショッピングパークやイベント用の舞台等様々な観光スポットが存在する。テレビもよく取材に訪れ、地元の人間を中心にそれなりに
まぁ確かに、あの空間が電飾で彩られれば、とても綺麗だろうし非常にロマンティックな雰囲気を
荷物を手に、私は菊池先輩と更衣室を後にする。
「クリスマスじゃなくてもいいから、一度行ってみなよ。四月の中頃までやってるみたいだし」
「へー。結構長い間やってるんですね」
そういうのはなんとなく、通年かあるいは長くても三月いっぱいまでで終わるものだとばかり思っていた。
「彼氏さん社会人だから、色々な所に連れて行ってもらえるんじゃないですか?」
「あれ? 私、彼氏が社会人なんて、水瀬さんに言ったっけ?」
「え? あ……」
しまった。私が菊池先輩の相手に当たりを付けている事は、まだ本人には知られていないんだった。
完全に油断していた。どうしよう。正直に話すか、あるいは――
「いや、話聞いてて、なんかそうかなって……」
一瞬の思考の末、私は後者の
……選んだ、というよりかは、逃げた。別に言ったところで何か問題があるわけではないのだが、なんとなく今ではないのかなと思うのと同時にどこか
「そっかそっか。うん。水瀬さんの推理通り、私の彼は社会人。でも、結構
「そう、なんですね」
教師だと部活もあるから、その辺りの自由度は確かに低いかもしれない。
「だから、そう意味じゃ、学生同士の方が予定合わせやすいんじゃない? あ、でも、部活入ってるとそうでもないか」
「いえ、私達は二人共部活入ってないんで」
ソフィアちゃんに関しては、あの運動神経でなんで運動部に入っていなんだと周りから思われていそうだが、そこはまぁ本人の気持ちの問題としか言いようがない。
「じゃあ、デートし放題だ」
「デートって言っても、喫茶店やファミレスがメインで、デートっぽい事はなかなか……。お金もそんなありませんし」
「
そうか。菊池先輩は同じ高校に通っていたとはいえ、相手が教師だったから……。
「制服着て、普通のお店に入って、なんでもない話をする。そういうのが、後から思い返したら掛け替えのない思い出に思えたりするものよ。今は、分からないかもしれないけど」
そう言って、菊池先輩がウィンクをする。
「菊池先輩は、初めてのクリスマスって緊張しました?」
だからだろうか、私の口からそんな言葉がふいに
「水瀬さんは緊張してるの?」
「はい。少し」
クリスマスは、家族もしくは恋人と過ごすものというイメージが私の中では強い。そのため、他のイベント毎とはまた違った感覚がどうしても
「私も水瀬さんと同じで、初めてのクリスマスは緊張したなー。特に私は相手が大人の人だったから、なんか余計に緊張しちゃって。多分
当時を思い出して、菊池先輩が苦笑いをその顔に浮かべる。
「まぁ、だからさ、その緊張も含めて初めてのクリスマスって事で、全部楽しんじゃえ」
「緊張を楽しむ、ですか?」
対戦や挑戦においてはよく聞く言葉ではあるが、日常生活でそれを聞く事はほぼない。しかし、恋人とのクリスマスは非日常。そういう意味では、当てはまるのかもしれない。
「にしても、
「そうですか……」
よく分からないが、それなら良かった。
「これからもどんどんお姉さんに相談しなさい。なんでも答えてあげるから」
「あ、はい。よろしくお願いします」
正直、こういう話は他の人には出来ないので非常に助かる。お言葉に甘えて今後も機会があれば相談させてもらおう。
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