第4話(2) 初給料
翌日の昼休み。いつものように私とソフィアちゃんは鞄を持って、お決まりの場所に向かう。
屋上に続く階段。そこに並んで腰を下ろし、二人でそれぞれの弁当をつつく。
その間、私は秘かにタイミングを
昨日購入したプレゼントは、鞄の中にある。後は渡すだけ、なのだが……。
渡す
一人よがりのサプライズ程寒いものはない。一方的にこちらの善意を押し付けた結果、相手の反応がいまいちだったら……。考えただけで恐ろしい。
「いお、どうかした?」
「え? 何が?」
「なんか、ぼっとしてるっていうか、考え事をしてるみたいだったから」
「……」
やはり、態度が表に出ていたか。
とはいえ、これはいいきっかけかもしれない。
「実は、ソフィアちゃんに渡したい物があって……」
そう言うと私は、
「私に? クリスマスにはまだ早いと思うんだけど……」
差し出されたそれを、ソフィアちゃんは
「中見てもいい?」
「どうぞ……」
私に許可を得てから、ソフィアちゃんが袋を開け中身を手に取る。
中から出てきたのは長方形の黒い箱だった。その
「綺麗……。ヘアピン?」
ヘアピンの形状を口で説明するのは難しい。
銀色の本体に、同じく銀色の向かい重なり合った波のような
「うん。それなら、ソフィアちゃんに合うと思って」
「ありがとう。でも、どうして?」
ソフィアちゃんの反応は、当然と言えば当然だ。誕生日やクリスマスでもないのに、突然プレゼントだなんて、私が逆の立場でも戸惑うし多分同じような質問をするだろう。
「この前、給料が入ったの。それで、初給料何に使おうと思ったら、ソフィアちゃんの顔が浮かんで……」
正確には、ソフィアちゃんと両親の顔が、だが。
「そんな、いいのに。けど、嬉しい」
ヘアピンに目を落とし、ソフィアちゃんが優しげな笑みをその顔に浮かべる。
「ねぇ、いおが付けて」
そう言ってソフィアちゃんが視線を上げ、手に取ったヘアピンをこちらに差し出してくる。
「え?」
「折角だから、ね」
「……」
何が折角なのかは分からないが、ここで断るのもなんだか違う気がするので、私は素直にヘアピンを受け取る。そして、ヘアピンを付けるためソフィアちゃんに体を近付ける。
――花のそれに似た、いい香りがした。
キラキラと輝く金色のカーテンに手を伸ばす。万が一にも傷付ける事がないように、細心の注意を払いソフィアちゃんの髪にヘアピンを付ける。
よし。
手が少し震えたが、
「どう?」
とソフィアちゃんが、私に付けてみた感想を求める。
「うん。思った通り、凄く似合ってる。綺麗」
やはり、私の目に
「ホント? 良かった」
私の感想を聞き終えると、ソフィアちゃんは自身の鞄から取り出したスマホで、自ら自分の姿を確認する。
「おー。いい感じじゃない。さすがいお、分かってるぅ」
「えへへ。そうかなぁ」
ご両親を除けば世界で一番ソフィアちゃんの事を理解していると
「でも、先月はいおそんなに働いてないから、バイト代あまり
「大丈夫。その辺りはちゃんと考えてるし」
ソフィアちゃんの言う通り、私の通帳に振り込まれたお金は二万程度と決して
「それに、私にとっては大事な事だから」
特に何もしなくても伝わる想いはある。けれど、口にしなければ伝わらない想いは確かにあるし、口にした方が伝わる想いもある。それと同じで、形にしなければ伝わらない想いや形にした方が伝わる想いもある。プロポーズなんかがそのいい例だろう。
だから、私は今回ソフィアちゃんにヘアピンを贈った。
形にしなければ伝わらないわけではないが、形にした方がこの想いはきっとよりいっそうソフィアちゃんに伝わる。
自分の贈った物を常に身に付けていて欲しい。綺麗な物があなたには似合う。
つまり――
第一章 想いを形に <完>
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