第2話(2) 体育

 一試合目はソフィアちゃんの活躍もあって、私達のチームが勝った。

 スコアは九対四。比較対象がないので、このスコアが多いのか少ないのかは分からない。ただ、なかなか点が入らなかったのは確かだ。


「最初のアレ何!?」


 試合が終わるなり、木野さんがそう言って私にめ寄ってきた。


「アレ?」


 とは、なんの事だろう?


「早坂さんがボール獲る前に、水瀬さんもう走ってたよね」

「あぁ……」


 アレか。


「うーん。なんとなく?」


 考えるよりも先に体が動いていたというかなんというか……。


 木野さんと一緒にコート外に歩き出す。


「もしかして、水瀬さんってエスパー? 未来とか見えちゃう系なの?」

「いやいや、単にかんが当たっただけだよ」


 まぁ、勘と言っても、ソフィアちゃんならカットするだろうというある種の確信めいたものがあった上での行動なので、いわゆる山勘とはまた違った、確実性の高い予想のようなものなのだが。


「はー。つまり、愛の力ってやつだ」

「へ? 愛? 何それ」


 どこをどう解釈かいしゃくしたらそんなトンデモ思考にいたるのか、ホントなぞ過ぎる。


「だって、その後のノールックパスもだけど、二人まるで思考を共有してるんじゃないかってくらい息ぴったりなんだもん」


 いや、確かに、そういうプレーもいくつかあったけど……。


 コートの外に出ると、私達は舞台の前で足を止めた。


「あれは愛がどうのこうのというより、いつも一緒にいるからソフィアちゃんが次に何をしようとしてるかなんとなく分かるってだけで……」


 だから、どちらかと言うと、重要なのは愛よりも理解力の方だと思う。


「うーん。まぁ、なんにせよ、二人は仲良しって事だよね」

「え? あ、うん。そう、だね」


 随分ずいぶんざつなまとめ方な気もするが、否定するのもなんだし私は笑ってうなずく。


「なんの話?」


 いつの間にか背後に立っていたソフィアちゃんが、私の両肩にそれぞれ手を置き、そう私達二人の会話に参加してくる。


「水瀬さんと早坂さんがラブラブって話」

「ん? そんな話してた?」

「してたよー」


 してたかー。じゃあ、仕方ないな。


「ラブラブ?」


 ソフィアちゃんが不思議そうに小首をかしげる。


「以心伝心、的な?」

「あぁ……」


 今の一言で、ソフィアちゃんは私と木野さんがどういった話をしていたか、大体理解したらしい。

 まさに、以心伝心。


「じゃあさ、好きな食べ物は? せーの」

「え? オムライス」

「カルボナーラ」


 木野さんの質問に、私とソフィアちゃんはそれぞれ別の料理名を答える。


「ありゃ、バラバラ」

「いや、以心伝心ってそういう事じゃないでしょ」


 ソフィアちゃんがあきれ顔で、木野さんの勘違いを正す。


 確かに、今の質問では相手の思考や嗜好しこうが分かっているかははかれない。


「うーん。なら――」

「紗良紗」

「何?」


 秋元さんに呼ばれ、木野さんが振り返る。


「何、じゃないわよ。もうすぐ次の試合始まるから、マークの確認。かえで下がるみたいだし」

「もう、そんな時間?」

「後一分」

「えー。三分って意外と早いんだね」


 などと言い合い、秋元さんと木野さんが他のメンバーの元に小走りで去っていく。


 ちなみに、私とソフィアちゃんは次の試合はお休み、得点係だ。


「得点板の辺りで座ってましょうか」

「うん」


 ソフィアちゃんの言葉に頷くと、私はその後に付いて得点板の方に移動する。そして、近くに二人並んで腰を下ろす。


 反対側には、同じく松嶋さんと田辺さんが座っていた。

 相手チームは、今回あの二人がお休みらしい。秋元さんが先程言っていた通りだ。


「得意じゃないなんて言って、いお普通に動けてたじゃない」

「そう? 自分では動きがぎくしゃくしてて、あまり上手く動けてるイメージはないんだけど」

「まぁ、経験者ではないんだし、ある程度は仕方ないでしょ」

「確かに……」


 とはいえ、得意という程ではないので、やはり自己評価としては普通が正しいのだろうか。


「スリーポイントシュートも決めちゃうくらいだしね」


 ソフィアちゃんが笑いながら、からかい半分にそう言ってくる。


「あれは……マークが外れてる内に打たなきゃって、必死で」


 どう考えてもスリーポイントシュートを狙う場面ではなかったのだが、追いつかれる前に打とうと思ったら、自然あの距離からのシュートになったのだった。


「にしては、綺麗に決まったじゃない」

「フリーだったし、いいポジションから打てたから」

「その後のレイアップシュートは外してたけど」

「うっ」


 さっきの試合、私は三度シュートを放ったが、入ったのは最初の一本だけ。特に二本目のレイアップシュートは、我ながらひどかった。リングに直撃、一歩間違えればね返ってきたボールに襲われるところだった。


「ドリブルやパスは悪くないのにね」

「これからは大人しくセットシュートだけにしとく」


 その方が確率は高いし、何より無様ぶざまさらさずに済む。


「いおのレイアップシュート、可愛かったのに」

「スポーツのプレーで可愛いは、ただの悪口だから」

「ごめんごめん。もう言わないから許して」

「たく」


 それにしても、私のレイアップシュートは、はたから見てもそんなに間抜けなのだろうか。一度客観的に見てみたいような見たくないような……。

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