⁂2(1) 準備
「ハロウィンパーティ?」
私の言葉にピンと来ていないのか、楓が不思議そうな表情でそうオウム返しをする。
夏休みが終わり、早くもひと月半が
私の隣には美咲ちゃんが座っており、オレンジジュースを飲みながら私達の話を熱心に聞いている。
「なんか、
いや、まぁ、集まるだけなら別にいいのだが、しっかりコスプレをしてパーティらしく騒ぎたいという事で、現在
「ふーん。別にいいんじゃない? 楽しそうで」
「何、他人事みたいに言ってるのよ。楓も参加するんだから、もうちょっと真剣に考えなさいよね」
「は? 何それ。聞いてないんだけど」
「そりゃ、今初めて言ったからね」
そもそもハロウィンパーティの話自体、昨日の夜急に上がったものなので、情報伝達がまだされていないのは当然であり、
「私、衣装なんて持ってないわよ」
「大丈夫。私も持ってないから」
「いや、それ、大丈夫な理由になってないから。というか、いつ私が参加するって言った?」
「紗良紗が、松嶋さんも参加してくれるかなって」
「……」
さすがに楓も、純粋な紗良紗の期待は
「いいなー。楽しそう」
それまで黙って私達の話を聞いていた美咲ちゃんが、ふとそんな事を言う。
「美咲ちゃんも参加しちゃう?」
「いいの?」
「いや、ダメでしょう。いくら女子高生しかいないとは言っても、大勢の高校生の中に小学生が一人でなんて、親の許可が下りないわよ」
芽生えた希望に目を輝かせていた美咲ちゃんの顔が、楓の正論によって一瞬でシュンと
「まぁ、楓の言いたい事は分かるけどね」
それでも出来る限り、美咲ちゃんの希望を叶えてあげたいというのが、私の常々抱いている思いだった。
「楽しそうな話、してますね」
私達の注文した飲み物を持ってきた桃華さんが、そう言って会話に参加してくる。
「ごめんなさい。盗み聞きをするつもりはなかったんですが、飲み物を運ぶ途中につい聞こえてきてしまって」
私の前にアメリカンが、楓の前にカフェラテが置かれる。
「さすがに厳しいですよね?」
ダメ元で私は、そう桃華さんに聞いてみる。
「うーん。桜さんと楓さんがいるとはいえ、知らない場所で尚且つ大勢参加するとなると、ちょっと簡単には首を縦に振るわけにはいかないですね」
「やっぱり」
それが常識的な判断というものだろう。残念だけど、美咲ちゃんとのパーティはまたの機会に……。
「けど、場所が私の知ってる所なら、内容次第では考えない事もないかなって」
「知ってる場所?」
っていうのは、どういう事だ?
楓も美咲ちゃんも私同様、まだ話の流れが
「十月の最後の日曜日はお父さんの用事があって、お店を閉める予定なんです」
ハロウィンは十月最後の月曜日。その前日にお店が空いていて、今の話の流れから行くと、つまり――
「このお店を貸して頂けるという事ですか?」
それは、こちらとしては願ったり叶ったりの提案だが……。
「うーん。多分?」
「多分?」
しかし、返ってきた桃華さんの答えはどうもはっきりとせず、私は
言い方はあれだが、まるで掛けられた
「お店のオーナーはお父さんだから、私の一存では決められないんです。でも――」
と言って、桃華さんが体を
「お父さんも美咲には甘々だし、多分大丈夫だと思いますよ」
小声でそう告げると、桃華さんは笑顔を浮かべすぐに態勢を元に戻した。
まぁ、祖父母が孫に甘いのは良くある話なので、まったく根拠のない
「今日の夜にでも、タイミングを見計らって聞いてみます」
「お願いします」
とはいえ、元より候補にすら上がっていなかった場所だし、ダメで元々ぐらいの心持ちでいた方がいいだろう。期待し過ぎてもろくな事にならないし。
――と思っていたら、その日の内に桃華さんから、二つ返事でオーケーが出たという
やはり、おじいちゃんは孫に甘いという事か。
いずれにせよ、これで場所の目処は立った。というわけで、とりあえずグループラインにメッセを送る。
後は、美咲ちゃんの存在を、みんなにどうやって知らせるかだが……。
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