第16話(2) テスト!

 二日目の科目は、英語Cと数学Ⅰ。

 どちらもやや不得意だが今更慌てる程ではない科目なので、手応えもそれに比例して可もなく不可もなくぼちぼちといったところだ。


 具体的に言えば、八十点前後。七十五点を下回る事はないかもしれないが、九十点を上回る事もおそらくない、そんな私にとっての平均点。まぁ、今回はそこに三・四点の上積みがなければ困るのだが……。


 ちなみに、昨日――というか今日は、一時にはとこいたので体調の方もそれなりだった。


 本当は日付が変わる前に寝られたら良かったのだが、どうしても不安の方が勝ってしまい、少し夜更かしをしてしまった。

 とはいえ、昨日とは違って昼寝が必要な程の眠気は今のところ覚えておらず、とりあえず夜まで意識は持ちそうだ。


 そんな私を見てソフィアちゃんが言う。


「今日は元気そうだから、一緒にご飯でも食べてましょうか?」


 勉強のために一分でも一秒でも惜しいというわけでもなかったため、私はその申し出を二つ返事で了承した。


 というわけで、私達は今、学校近くのファミレスにいた。

 四人掛けのテーブルに向かい合って座り、食事をしている。私の前にはハンバーグとライスが、ソフィアちゃんの前にはカルボナーラが置かれていた。然程さほど長居をするつもりはなかったため、ドリンクバーは付けず飲み物は水だった。


 店内には、私達以外にも制服に身を包んだ学生の姿がちらほら見受けられる。


 テスト期間中にも息抜きは必要だろう。


 時間が時間なので、さすがにここでテスト勉強をする者はいない。昼時は書き入れ時。平日でもやはり店内は混んでいた。


「今日で折り返しだけど、調子はどう?」


 パスタを口に運びながら、ソフィアちゃんがそう私に聞いてくる。


「悪くはないけど、特別良くもないかな。良くも悪くも、想定の範囲内ってやつ?」


 大幅な点数の伸びは、今のところ期待出来そうにない。


「ソフィアちゃんは?」

「私はほら、常に完璧だから」


 そんな冗談めかした軽口もソフィアちゃんが口にすると、妙に堂に入っており「何それ」と笑い飛ばす事は出来ない。


「いお、ソース付いてる」

「え? どこ?」


 ソフィアちゃんに指摘され、指で口元を触る。しかし、指に触れるのは、自身の肌ばかりで一向にお目当ての物には辿たどり着けない。


「じっとしてて」


 テーブル脇に置いてあった紙ナプキンを手に取り、ソフィアちゃんが私の口元をく。


「うん。取れた」

「ありがとう」


 お礼を言い、私は食事を再開する。


「ねぇ、ハロウィンパーティーの衣装どうする?」


 中間テストがあるのであまり考えないようにしてきたが、ハロウィンパーティーまで時間は言う程ない。今日を入れても後四日。そろそろ、当たりくらい付けておかないと……。


「適当な物でいいなら、ネットかドンキ? 時間もないし、本格的な物着てく感じでもないからその辺りが無難じゃない?」


 確かに、ソフィアちゃんの言う通り、選択肢は限られてる。


「もしネットで頼むんだったら、配達が遅れる事も考えて少なくとも明日には注文した方がいいかな。直接見て選びたいって言うなら、金曜にドンキ行ってもいいし」


 どうやら、そのどちらになるかの決定権は、私にゆだねられたらしい。


 考える。正直、どちらを選んでも別にいい気もするが、それゆえに決め手に欠ける。


 うーん……。


「ネットにしとく?」


 迷ったげ句、私はネットを選んだ。


 その理由は、〇ンキだと他の人と被りそうというものだった。


「じゃあ、今決めちゃう?」

「今? ここで?」


 急にそんな事言われても心の準備が……。


「だって、どっちにしろ明日もテストなんだから、余計な事に思考割くよりチャチャッと決めちゃった方が絶対いいでしょ」


 ソフィアちゃんの言う事には、一理どころか二理も三理もあった。


 とはいえ、急にここで決めろと言われても……。


「まずは何になるかね。定番は魔女、ゾンビ、後はドラキュラとか?」

「その辺は、誰かしらとかぶりそう、というか、絶対被る」


 まぁ、被ったら被ったで別に気にしなければいいだけの話なのだが、避けられるのならそれに越した事はない。


「西洋から離れるけど、キョンシーなんかも可愛いかも。中華系、生足……いい」


 頭の中で想像をふくらませているのか、ソフィアちゃんの視線ははるか頭上、遠い彼方かなたを見つめていた。


「他には悪魔とかもあるよね。角付けてるだけって感じもするけど……」


 ソフィアちゃんの思考を呼び戻す意図も込め、私からも衣装の方向性を一つ上げてみせる。


「角、ミニスカ……それもいいかも」

「……」


 結局、なんでもいいんじゃ……? というか、この感じだと、自分ではなく私が着る想定をしてそう。別にいいけど。


「んー……」


 それまで想像の世界に旅立っていたソフィアちゃんの瞳が、突如私を真っ直ぐ捉える。


「何?」

「犬耳なんてどう?」

「いぬ、みみ?」


 何を急に?


「ほら、おおかみ男ならぬ狼女って事で」

「うーん。まぁ、なくはない、かな?」


 実際、そういう仮装も、テレビの中やフィクションの世界ではたまに見掛ける。


「ちょっと、調べてみるわね」


 そう言うとソフィアちゃんは、スマホを取り出しそれを操作する。


「あ、これなんかいいんじゃない?」


 程なくして、ソフィアちゃんがスマホの画面をこちらに向けてきた。

 そこに映っていたのは、胸元だけ白くなったグレーのワンピースと狼の耳の付いたカチューシャを身にまとった女性の写真だった。それは通販サイトのページで、はしに四千円という表記が。


 腕と足こそ出ているが、露出度は許容の範囲内。格好も特別奇抜というわけではない。


 まぁ、これなら……。


「決まりね」


 私の口から反対意見が出ない事を肯定と受け取ったのか、ソフィアちゃんがスマホを裏返しそうにやりと笑う。


 こうして、ハロウィンパーティー当日に着ていく衣装が決定した。


 手配はソフィアちゃんがしてくれ衣装も早坂はやさか家に届くようにするとの事なので、私が当日までに出来る事は特にない。精々せいぜい試着をするくらい? いやー、ホント当日がタノシミダナ。

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