第16話(1) テスト!

 一週間あまりのテスト週間が終わり、今日から中間テストが始まる。

 初日は現代国語と化学基礎。前者は得意分野という事で、昨日の勉強はほとんどの時間を科学基礎についやした。さて、その成果が出てくれればいいが。


 一時間目の国語総合は、当初の予定通りすらすらとシャープペンが進み、感触も上々、悩んだ箇所はあったものの、ぼんミスさえなければ九十後半は行きそうだ。


 そして、問題の化学基礎を迎える。


 問題用紙を見た瞬間、思わず「うっ」という言葉が口かられた。拒否反応とまでは行かないが、それに近いものはある。簡単難しい以前に、苦手が先に立って出る。

 とはいえ、そんな事も言っていられないので、一つ一つ上から順に問題に目を通していく。分からないものは飛ばし、分かるものから先に。


 半分終わった時点で四問の空欄が出来た。しかし、これは想定内、どんどん次に進む。


 問題用紙の一番下に到達したのは、残り時間が十五分となった頃。空欄は後六つ。見直しを含めると、結構ギリギリかもしれない。


 とりあえず、まずは空欄を埋める。見直しはそれからだ。


 選択問題は勘を交えて、筆記の箇所は脳みそをフル回転して記憶の奥底の答えをなんとか引っ張り出す。

 その結果、空欄は埋まり、見直しも寸でのところで間に合った。


 チャイムが鳴り、答案用紙が回収される。――と同時に、私は机にうっぷした。


 疲れたー。


 やはり、苦手な科目はそれだけで疲れる。頭を必要以上に使うし、明らかに正答率も落ちる。贅沢ぜいたくは言わない。七十五点。そこだけはなんとかクリアしてくれ。


「いお」


 背後から体を揺すられ、私は体を起こす。


 振り向くと、ソフィアちゃんがこちらを見ていた。


「どうだった?」

「分かんない。やれるだけの事はやったつもりだけど……」


 正直、手応てごたえはあまりない。あるのは、疲労感と不安だけだ。


「見せて」


 差し出された手に、自身の問題用紙を乗せる。


 答案用紙は回収されてしまったが、後で確認出来るようにこちらにも回答を記入してある。なので、これを見れば、今回の私の出来がなんとなくだが見えてくる。


「んー。悪くはなさそうかな」


 ざっと全体に目を通し、ソフィアちゃんがそんな事を私に言う。


「そっか」


 良さそうと言われた方がいいに決まっているが、まぁ、ソフィアちゃんが悪くないと言うならきっと悪くないのだろう。


「はい」


 返ってきた問題用紙を受け取り、鞄にしまう。ついでにペンケースも。


 机の中には何も入っていないので、これで帰り支度じたくは終了。すぐにでも帰宅出来る。


「帰ったら少し寝たら? 顔、凄い疲れてる」

「うん……」


 さいわいな事に、時刻はまだ昼前。少しくらい昼寝をしても大丈夫だろう。


 何せ、中間テストは四日間。二日や三日なら無理も効くが、四日となるとそれも難しくなる。明日に備え、例え僅かでも体と頭を休めておかなければ。


 ホームルームが終わり、生徒達が動き始める。


 テスト期間中は構内の居残りが禁止されているため、日頃は腰が重い生徒も今日ばかりはそそくさと教室を後にする。


「帰ろうか」


 ソフィアちゃんにうながされ、私も鞄を手に出入り口に向かう。


 顔馴染なじみと挨拶あいさつを交わし廊下へ。


「頭を働かせるには、睡眠も大事なんだからね」


 教室を出るなり、ソフィアちゃんにそう説教をされる。


「それは分かってるけど……」


 理科は特に不安な教科だったため、昨日は必要以上に夜更かしをしてしまった。最後の悪あがきというやつだ。


「何時に寝たの?」

「三時……半?」


 正確な時間は覚えていないが、多分それくらい。


「そりゃ、眠くもなるわよ。最低でも二時には寝なきゃ」

「うん。今夜はそうする」


 今日は昨日と違って勉強する時間もそれなりにあるし、理科以上に不安な教科はないので、昨夜のような事にはならないはずだ。


「ソフィアちゃんは? 昨日何時に寝たの?」

「私は十一時過ぎかな」

「早くない?」


 高校生ならそのくらいの時間に就寝した方が健全でいいのかもしれないが、それはあくまでも平常時の話。テスト前にそんな健全な行動が出来るのは、余裕の表れかあるいはあきらめの境地によるもののどちらかだろう。


 当然ソフィアちゃんの場合、その行動の理由が後者であろうはずがなく……。


「まぁ、今更バタバタしても仕方ないから」

「……」


 それを言われてしまうと、今更バタバタした私が馬鹿ばかみたいじゃないか。


「えーっと、ドンマイ?」


 反応から私の心境を察したのか、ソフィアちゃんがそんななぐさめとも励ましとも取れる言葉を口にする。


 ただしそれは、この状況では追い打ちにしかならず――


「うっ」


 手負いの私は更にダメージをもらうのだった。

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