第15話(3) テスト勉強
水瀬いおの知性が一上がった。
なんていう風に分かりやすく目の前のウィドウに文字が浮かべば
「またいおが下らない事考えてる」
隣を歩くソフィアちゃんが、的確に私の思考を読む。
時刻は十八時を回り、私達は帰宅の途に着くべく肩を並べて二人で廊下を歩いていた。
まったく、この世界にはエスパーが多くて困る。その内、超能力同士のバトルでも
「うっ」
「こんな超絶美少女を放っておいて、一人でしょうもない思考を巡らすとはいい度胸ね。いおちゃん」
「すみません」
超絶美少女の箇所を含めて一切反論の余地がないため、私は素直に謝罪の言葉を告げる。
「慣れないお勉強で疲れちゃったのかしら? いおちゃんは」
「そんな事は――」
ない事もないけど……。
自室に
そう考えたら、先程の知性が一上がったというのも、あながち大げさな表現ではないのかもしれない。
「?」
ふいに手の甲に、ソフィアちゃんの手が当たる。
最初はたまたまかなとも思ったが、二度三度と当たる内にそうではないと気付く。
明らかにわざとだ。
「何?」
「何が?」
私の問いに、とぼけた答えを返すソフィアちゃん。
意図的でないと言いたいのだろう。
まぁ、いいけど。
「ソフィアちゃんって、時々子供っぽい事するよね」
「好きな子にちょっかい掛けたくなる、小学生男子の心境なのかしら?」
「そんな他人事みたいな言い方して」
とはいえ、私自身自分の感情や気持ちの全部を知っているかと言うと決してそうではないので、とても人の事を言えた義理ではないのだが。
「ソフィアちゃんは、ちょっかい出され慣れてそうだよね」
「私の場合、容姿の事もあるから。それに加えて、転校生っていうオマケ付き。目立たないようにするのは、呼吸をするなって言われてるようなものだったわ」
「そっか……」
少し考えれば分かる話だ。ソフィアちゃんがどんな幼少期を送ってきたか。というか、実際にその口から話を聞いてきた。
「まぁ、昔の話だし、お人形さんみたいって瞳を輝かせて言ってくれた子もいたしね」
私のそんな思考に助け船を出すように、ソフィアちゃんがそう肩をすくめて言う。
「それって私の事?」
「さぁー、可愛い女の子だった事は確かね」
「もう。ソフィアちゃんは、そうやってすぐからかうんだから」
「ごめんごめん。怒らないで、私のお姫様」
言いながらソフィアちゃんが、私の
「「ぷっ」」
そして、
私達は高校生。いわゆる、箸が転んでもおかしい年頃というやつだ。それが、好きな人と一緒なら尚更……。
「外、暗くなるのが大分早くなってきたわね」
ふと窓の外を見て、ソフィアちゃんが
「もう十月も
クーラーが必要な時もまだあるが、それと同時に、肌寒さを感じる時も日に日に増えたような気がする。暦の上ではもう秋も中盤。油断をしていると、すぐに冬が来てしまう。
「秋なんて来なければいいのに」
「珍しい事言うね」
時期的には春や秋は過ごしやすい季節とされているので、どちらかと言うと歓迎されそうだが、ソフィアちゃんにとっては違うらしい。
「だって、日が落ちるのが早くなったから、いおと会える時間もその分短くなっちゃうでしょ?」
なるほど。確かに同じ時刻でも、明るいと外にいてもまだ大丈夫な気がするが、暗いと早く家に帰らないといけない気持ちになってくる。
どうせ晩御飯までには家に帰らないといけないのでほんの数十分の違いだが、それでも少しでも一緒にいたいと思う気持ちは当然私の中にもあった。そしてその気持ちは、時が
「なんか私達、付き合いたてのカップルみたいだよね」
「みたいじゃなくて、実際そうなのよ」
私の言葉を、ソフィアちゃんが
「あ、そっか」
「そんな大事な事忘れたの? 告白してきたのは、いおでしょうに」
「あれ? 最初に告白してきたのは、ソフィアちゃんじゃなかったっけ?」
月が
「……今夜も月が綺麗ね」
誤魔化すように、ソフィアちゃんが再び窓の外に目をやり、そんな事を口にする。
しかし――
「半分以上欠けてるけど?」
今夜の月は、満月でも三日月でもない中途半端な形をしていた。やや半月といったところだろうか。
「満月だけが綺麗な月とは限らないでしょ?」
「確かに」
完璧なものだけが美しいわけではない。むしろ、完璧ではないからこそ美しいものもある。……ちょっと、咄嗟に例は思い浮かばないけど。
「――っ」
ふいに、ソフィアちゃんの右手の小指が私の左手の小指に一瞬
思わず隣に目を向けると、当の本人は素知らぬ顔で視線を前に向けていた。
指が瞬間絡む。それだけの事なのに、なんだかいけない事をしているような感じがして、私の胸はドクンと高鳴るのだった。
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