第16話(3) テスト!

 三日目は、歴史総合と生物基礎。私にとっては、初日と同じような組み合わせだ。

 そのため、昨日の過ごし方も大体同じ。勉強時間の割合は、歴史総合二に生物基礎八といった感じで、後者が圧倒的に多い。


 一時間目の歴史総合は、得意分野という事もあって余裕を持って終了。十二分な見直しを行っても、五分以上の時間的余分が出来た。


 そして問題の生物基礎。本能的なものか理科全般を苦手とする私は、ここでも苦戦を強いられる。物理基礎同様、一番下の問題に到達した時点でいくつかの空欄が残り、その穴埋め作業に四苦八苦。脳がオーバーヒートする寸前まで追い込まれながら、なんとか全ての答案をめる事に成功した。ただし、成否せいひの方はその限りではない。


「お疲れ様」


 初日の焼き回しのような光景に、声を掛けてきたソフィアちゃんも、思わずといった様子で苦笑いを浮かべる。


「どんな感じ?」

「……」


 答えの代わりに、私は無言で問題用紙を手渡す。


「なるほど」


 それにさっと目を通しながら、ソフィアちゃんがそう呟くように言う。


 なるほど? 何に納得したというのだろう。


「七十点」

「うっ」


 有り得そうな点数の中でもっとも低い数字を言われ、私はショックを受ける。


 こうかはばつぐんだ。


「なんてね」

「え?」


 何が? 何がなんてねなの? 訳が分からないんだけど。


「本当はそこまで悪くないって事。七十点後半? 八十点にギリギリ届くか届かないか……」

「もー。ソフィアちゃん」


 性質たちが悪く尚且なおかつリアル過ぎる冗談は、ホント止めてもらいたい。


「ごめんごめん。いおの反応が面白おもしろくてつい」


 そう言ってソフィアちゃんが、私に問題用紙を返却する。


「こっちは全然面白くないから」


 言いながら私は、受け取ったそれを他の物と一緒に鞄にしまう。


 よし。これで帰る準備は万端だ。


「なんにせよ、苦手科目は無事終了。いおも一安心ってところじゃない?」

「まぁ……」


 明日もテストはあるのでもちろん完全に気を抜くわけにはいかないが、変な緊張感は確かになくなった。今日はよく眠れそうだ。


「ねぇ、明日の放課後、どこか行かない?」

「どこかって?」


 テストが終われば晴れて自由の身。更に昼前に学校は終了となれば、羽根を伸ばしたくなる気持ちも分からないでもない。


「うーん。カラオケとか?」


 カラオケか。遊園地や水族館なんて言われた日にはどうしようかと思ったが、カラオケなら距離も遠くないし歩き回る必要もないので、テスト終わりに行く場所としてはむしろ最適かもしれない。


「いいけど、私、流行はやりの曲は歌えないどころかほとんど知らないからそのつもりで」


 オリコンチャートの上位をにぎわすような曲であればなんとか聞いた事ぐらいはあると思うが、それ以外は本当に知らない。アニメの主題歌を担当して初めて、世間的には有名なアーティストの名前を知ったという事も一度や二度ではない。それくらい音楽にはうとい。いや、音楽にも疎い。


「うふふ。いおってば、私を誰だと思ってるの」

「金髪碧眼へきがん超絶美少女クォーター」

「いや、それは、うん。間違いではないんだけど……。そうじゃなくて、私もそれなりにアニメをてるって事。明日はアニソン縛りで行きましょ」


 さすがソフィアちゃん。オタクに優しい金髪碧眼超絶美少女クォーターは、現実に存在した。


 帰りのホームルームを終え、教室を後にする。


「衣装って、明日届くんだっけ?」


 少し遅れて廊下に出た私は、ソフィアちゃんの隣に並びながらそんな事を尋ねる。


「うん。予定通りなら。何? 早く着たいの?」


 からかう材料を見つけたとばかりに、ソフィアちゃんがにやけ顔を私に向けてくる。


「いや、単に確認っていうか、問題があったら早めに対処しないとでしょ」


 軽めの問題であればすぐにでも処置に取り掛からないといけないし、重めの問題であれば交換や代替品の用意とそれこそ時間と勝負になる。


「とか言って、いおも段々乗り気になってきたんじゃないの?」

「自分が着ると思わなければね」

「Give and Takeって言葉知ってる?」

「何かを得るためには対価が必要って事?」


 まぁ、その対価が自らの醜態しゅうたいなら、むしろ安いのでは? ソフィアちゃんと私では、どう考えても価値が同等ではない。海老えびたいるとはまさにこの事だ。


「タダより高いものはないってね」

「それはなんか違うような……」


 とはいえ、ソフィアちゃんのコスプレにお金を払ってでも見る価値があるのは確かで、実際にそんなファンサをされたら何かを疑ってしまうかもしれない。ソフィアちゃんだし。


「着る事はすでに確定してるんだから、もういっそノリノリで楽しんだら?」

「うん……」


 それは本当にその通りだ。どうせやるなら嫌々やるより楽しんでやった方が絶対にいい。


「みんな、どんな格好かっこうしてくるのかしら」


 ふとソフィアちゃんが、ひとごとのようにそう呟く。


 確かにそこは気になるかも。まったく毛色の違う衣装を着ていって、私達二人だけが浮く可能性もなくはない。明日木野さんにでもなんとなく探りを入れてみようか。まぁ、今更知ったところでどうする事も出来ないんだけど。

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