第12話(2) 刻印
放課後。私達はソフィアちゃんの部屋にいた。
昼休みの続き、指輪の内側に入れる刻印を考えるために。
テーブルの上にはジュースの入った二つのコップと、小分けにされたチョコレートの入った
「じゃあ、私から」
そう言ってソフィアちゃんが、テーブルの上にノートを広げる。
そこには、いくつかのイラストが描かれていた。
「いお?」
「え? あ、うん。見てるよ」
いけないいけない。そんな事は今どうでもいい。今考えなければいけないのは、刻印のデザインをどうするかだ。
「何個か描いてみたんだけど、コレって言うのがなくて」
水滴とリンゴがただ横に並んでいるだけのもの。擬人化された水滴とリンゴが手を繋いでいるもの。リンゴの上に水滴が乗っかっているもの。水滴とリンゴが斜めになって並んでいるもの。無難ではあるが、どれもその枠を抜けられていない印象だ。
「いおは?」
そう言われ、私も自分のノートをテーブルの上に広げる。
私が描いたイラストは全部で三つ。水滴とリンゴを組み合わせて一つにしたもの。水滴とリンゴでハートを形取ったもの。リンゴが水で
「おー。ぽくていいんじゃん」
ソフィアちゃんの反応は上々。授業を片手間にして、一生懸命考えた
「これなんて特にいいんじゃない?」
ソフィアちゃんが指差したのは、水滴とリンゴが組み合わさったものだった。
「というか、いお、絵上手くない? なんかやってた?」
「別に何も。ただ昔から
けど、それぐらいオタクならみんなやっているだろうし、何も特別な事ではないだろう。
「へー。ウチにあるの? 今まで描いたやつ」
「あるけど……」
なんだろう?
「え、みたい。今度家行った時、見せてよ」
やっぱり。そう来たか。
「見ても別に面白くないよ。
「いおの描いた絵でしょ? だったら、興味あるな、私は」
まぁ、そういう事なら。
「今度ね」
「やった。楽しみだな。どんな感じなんだろう?」
「……」
ヤバい。ソフィアちゃんの中で、私の絵に対する期待値が変に上がってしまっている。絶対そんないいものじゃないのに。
「趣味とも呼べない代物だから、あまり期待しない方が……」
「うん。大丈夫。いおの絵を見たいだけだから」
「……」
いや、これはどうなんだろう? 言葉通りに受け止めれば、例え
――と、話が脱線してしまった。そもそもは、刻印のデザインを決めるためにこうして話し合っているんだった。
「で、結局、刻印のデザインどうする?」
「え? いおの描いたこれでいいんじゃない? シンプルだけど可愛いし」
そう言ってソフィアちゃんが、再び先程と同じイラストを指差す。
「ホントに? もう少し考えた方が良くない?」
「なんで? 私はいいと思うけど?」
「そう?」
ソフィアちゃんの言葉に気を遣った様子はなく、むしろ私がなんでそこまで決定を引き延ばそうとしているのか分からないといった様子だった。
「じゃあ、これをベースに彫ってもらおうか」
「うん。そうしよう」
まぁ、ペアリングを作るまでまだ数日あるし、デザインはブラッシュアップするとして、とりあえずこんな感じのものを彫ってもらうという事で。
「思ったより早く決まったわね」
「だね」
本日の予定は早くも終了、後は完全な自由時間だ。
なんともなしに室内を見渡す。
「あ、ぬいぐるみ、やっぱりそこなんだ」
動物園で買ったマヌルネコのぬいぐるみがベッドの隅に
「だって、他に置くとこなくない? いおもベッドの上置いてたし」
ソフィアちゃんの言うように、私もカワウソのぬいぐるみをベッドの上に置いている。なんとなくそこが、しっくり来たのだ。
「後は、
「棚はともかく、床は何かの
「確かに」
それはある。洗えば綺麗になるかもしれないが、汚れる機会をわざわざ自分から増やす必要はない。更に言えば、日頃からぬいぐるみを抱きしめる習慣は私にはなかった。……ベッドの上ではまぁ、たまにするかもしれないが。
「今度は開園直後に行こうね、動物園」
「うん」
私の言葉に、ソフィアちゃんが頷く。
とはいえ、当分はいいかな。そんなに頻繁に行く所ではないだろうし。次は、冬休みとか? そう言えば――
「年越しはどうするの? ソフィアちゃんは」
「何、急に?」
私の中では、動物園→行くなら冬休み→年越しという感じで思考の流れが出来ていたのだが、それを知らないソフィアちゃんからしてみれば確かに急な話題転換だったかもしれない。
「二人共忙しいだろうから、私が向こうに行く事になるかも」
しかしソフィアちゃんは、特に文句を言う事なく、普通に私の質問に答えてくれた。
「そっか。じゃあ、
「四日には戻ってくると思うから、その時に一緒に行きましょ」
考えてみれば、初詣は何も三が日中に行かなければいけないわけではないし、四日に行っても別にいいのか。
「というか、年越しなんてまだ先じゃない。そんな事今から言ってたら、鬼に笑われるわよ」
そう言ってソフィアちゃんは、鬼の代わりににやりと笑うのだった。
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