第12話(1) 刻印
「そう言えば、ペアリングなんだけどさ」
昼休み。いつもの場所で食事を取っている最中、ソフィアちゃんがふいにそんな言葉と共に話を切り出す。
もしかしたら、二人きりになるこのタイミングを待っていたのかもしれない。
「うん」
「どの指に合わせて作ろうか?」
「あー……」
言われてみれば、手の指は五本あり、そのどの指にはめるかによって指輪の大きさは変わってくる。
「で、私調べたんだけど、十本の指それぞれに意味があるみたい」
「あ、それ、なんか聞いた事あるかも」
代表的なのは左手の薬指だが、その他の九本にもちゃんと意味があり、知らずに付けると面倒な事になるものもあるとかないとか。
とはいえ、どの指が何に該当するかはさすがに忘れてしまった。
「まぁ、それぞれの指の説明は
「そう、なんだ」
なんとなく親指に付けるのは抵抗があるが、それ以外の指なら割とどこでも付け心地は変わらない気がするし、私としては小指だろうとなんだろうと問題はない。
「どっちの小指?」
「確か、右手が
魅力とチャンス。思いやりと絆。正直私の方はどちらに付けても大差なさそうだが、ソフィアちゃんの方はこれ以上魅力を上げてどうするんだという感じはある。ならば――
「左手かな……」
「その心は?」
「いや、深い意味はないけど、二人の絆が深まるってなんか良くない?」
ソフィアちゃんに選んだ理由を聞かれ、私は
全くの口からでまかせというわけではなく、第二理由としてそういう事もぼんやりとではあるが考えていた。
「じゃあ、左手の小指に付けるって事で」
「うん」
そう言えば、とふと思う。
左手の小指と言えば、赤い糸が出ているのも左手の小指だ。別に狙って選んだわけでないが、そう思うと更に右手ではなく左手の方がいい気がしてきた。
「楽しみね」
「え?」
「だって、いお。口元
指摘され、その
仮に私の口元が緩んでいたとして、それはソフィアちゃんが思うような意味ではない。もっと深くもっと濃い、友情とはまた違った感情がそこにはあった。
「あの、ソフィアちゃん、私――」
何かを口にし掛けて止める。
私は今、何を言おうとしたのだろう。分からない。分からないけど、それは今言う事ではない気がした。今はまだ……。
「どうかした?」
そんな私の様子に、ソフィアちゃんが不思議そうに首を傾げる。
「指輪作るのなんて初めてだから、何も分からなくて」
結局私は、全く別の事を口にする。
「私もそんなに経験あるわけじゃないけど、
「刻印ってアレだよね。お互いのイニシャル入れたり」
私達なら、I&Sといったところだろうか。いおソフィなんて呼ばれ方されているし。
「他にはお互いの名前から連想出来る
「名前に桜が入ってたら桜、お互いが星好きだったら星みたいな感じだよね」
「そう。けど、私達の場合、決まったそういうのはないから……無難にイニシャルかしら」
もちろん、それでもいいんだけど……。
「
「イメージ?」
私の言葉に、ソフィアちゃんが首を傾げる。
「例えば、水滴とリンゴ、とか?」
「水滴はなんとなく分かるけど、リンゴは? どこから出てきたの?」
「ほら、前にソフィアちゃんが、ソフィアって名前には賢さや知恵みたいな意味も込められてるって言ったじゃない?」
「あー。言ったかも」
それは文化祭が終わってすぐの頃、お互いの名前についての話をした時にソフィアちゃんが口にした、自身の名前に関する意味や
「知恵を象徴するのは生き物だとフクロウや
「リンゴ。アダムとイブの知恵の果実ね」
ソフィアちゃんは私の言葉を引き継ぎそう呟くように言うと、口元に手をやり少し考える素振りを見せた。
「いいんじゃない? ただイニシャルを入れるより、よっぽどオリジナリティがあって。細かいデザインはまた考えるとして……。うん。それで行きましょ」
「……」
自分で言いだしておいてなんだが、いざ採用されると本当にそれでいいのか不安になる。
やはり、無難に、イニシャルの方が良かったのでは?
「私達が良ければそれでいいのよ」
ソフィアちゃんが、私の内心を
「付けるのは私達。でしょ?」
「そう、だね」
確かにそうだ。指輪の裏の刻印なんて、付けてしまえば誰にも分からない。だから、究極の話、私達さえ良ければそれでいい。
「刻印のデザインは放課後までの宿題って事で」
「あ、うん」
宿題。オタクの
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