第11話(2) 相談
放課後。ソフィアちゃんと駅前で分かれ、私は一人ホームに向かう。
学校が終わってすぐという事もあって、構内にはウチの生徒の姿がそれなりに見受けられた。
とはいえ、その中に見知った顔はなく、私は定位置に立つと、スマホを取り出しそれをいじり始めた。
ネットで、ペアリングについて調べてみる。
人気商品ランキング。一位は二万三千百円、二位は六万九千三百円、三位は九万九千八百円。
「……」
やはり、指輪だし五
まぁ、ペアリングという
いや、私にとっては十分高いが。
「いおちゃん」
ふいに名前を呼ばれ、そちらに目をやる。
黒髪ロングの大人美人がそこに立っていた。図書委員の
「一緒になるのは珍しいね。隣いいかな?」
「あ、はい。どうぞ」
璃音先輩とは月に数回こうして帰りに出くわして、一緒に電車に揺られる事がある。
「今日は部活ないんですか?」
「日曜日試合だったから、今日は休み。日頃練習してるとはいえ、試合だと緊張もするし今日は疲れがひどくてね、家に帰ったらすぐバタンキューさ」
「バタンキュー……」
璃音先輩は、時よりこの手の言葉をわざと
一見したら、璃音先輩は近寄りがたい雰囲気をしている。怖いというより
しかし、実際に話をしてみると、璃音先輩は優しく気さくな事がすぐに分かる。静謐さは鳴りを
綺麗で優しくて、さらりとそんな気遣いも出来るなんてホント神か、この人は。
「おや、何やら可愛い物が付いてると思ったら、カワウソ君じゃないか」
私の鞄に付けられたキーホルダーを見て、璃音先輩がふいにそんな事を言ってくる。
「あ、これですか? 一昨日動物園に行って、そこで買ってきたんです」
キーホルダーに目をやり、私は璃音先輩にそう言葉を返す。
「動物園。いいね。私は高校に入ってから一度も行ってないけど。例のソフィアちゃんと一緒に行ってきたのかい?」
「はい。このキーホルダーも、実はソフィアちゃんとお揃いなんです」
「へー。それは……」
そう言って璃音先輩は、わざとらしくにやついてみせる。
「相変わらず、仲が良さそうで良かったよ」
「仲は悪くないです、別に」
璃音先輩の言葉をそのまま認める事が出来ず、私は思わず言葉を
多分、普通の友達関係なら、ソフィアちゃんくらい仲良くしていたら、素直にそれを認めていただろう。だけど……。
「一難去ってまた一難って感じかな」
「え?」
「何か悩み事があるんだろ?」
「実は――」
少し考えた末に、
「ソフィアちゃんがペアリングを作ろうって言ってきて」
私は比較的話しやすい方の悩みを口にした。
「ペアリング、ね」
思うところがあるのか、璃音先輩は口元に手をやると、呟くようにそう言う。
「いや、まぁ、仲のいい女性同士で付けるパターンもあると言うし、本人達が良ければ別にいいんじゃないか」
「それはそうなんですけど……」
そうではないというか、本質的には違うというか……。
「なるほど。ペアリングの意味を図り
「……」
凄いというより、ここまで来ると怖い。
とにもかくにも、璃音先輩は、私の心情のほぼ全てを言い当てていた。
「あれ? 違ったかな? もしも全く見当外れの事を言ってるようなら、恥ずかしいから早めに指摘して欲しいんだが」
「……璃音先輩は、人の心が読めるんですか?」
「私はエスパーじゃないんでね、読めるのは精々人の顔色くらいさ」
そう言って璃音先輩は、私に向かってウィンクをした。
ジョークを言っても様になるのは、美形の特権、そして証だろう。
今度、ソフィアちゃんにも言ってもらおう。
……ソフィアちゃんの場合、なんか可愛い事になりそうだが、まぁそれはそれでいいか。どっちに転んでも私には得しかないんだし。
電車が来て、それに二人で乗り込む。
車内は
「それにしても、女子というのは、どうしてお揃いを好むんだろうな。あ、いや、それが悪いと言ってるわけではなく、純粋な興味としての質問なのだが」
「単純に一緒の物を使う事で一体感を感じられるのと、後はアピールじゃないでしょうか」
「アピール?」
私の言葉に、璃音先輩が首を傾げる。
「周りに私達は仲良しですよっていう。それがカップルや夫婦なら、だから手を出すなという
「なるほど。思ったよりも深いんだな、お揃いというやつは」
「まぁ、ただ単に好きだから一緒の物を使いたいってだけの可能性もあるので、全てに私の言った事が当てはまるかというと……」
自分で言っておいてなんだが、物事を深読みし過ぎても
「なら、君達のペアリングもあまり深く考え過ぎず、ただただそういうものだと思った方が良さそうだね」
「……」
見事にブーメランが突き刺さる。
確かに、ソフィアちゃんは純粋に私とお揃いの物を身に付けたいと思っているだけで、それを私が勝手に深読みし過ぎているだけなのかもしれない。
「それに、仮に君の予想通りだったとして、何か困る事があるのかな?」
璃音先輩が、ひどく
油断していた所を、背後から刺された気分だ。
本当にこの人は、どこまでお見通しなのだろう? もしかして、全て分かっていてあえてぼんやりとした物言いをしているとか?
「ところで、いおちゃん。この後、
「この後って、帰るだけなので、晩御飯までは暇といえば暇ですけど……」
突然の話題転換に戸惑いながら、私はそんな風に言葉を返す。
というか、これって――
「じゃあ、
やはり、寄り道のお誘いだったか。
新高敷駅は、私達が今乗車した学校の最寄り駅から数えて三つ目に存在する駅だ。
駅舎は新幹線が停まる駅を除けばこの辺りで一・二を争う大きさを誇り、そのため付近もそれなりに栄えている。
それにしても、どういう風の吹き回しなのだろう?
今まで璃音先輩とはこうして一緒に電車に乗る事はあっても、どこかに寄り道する事はなかった。なのに、今日に限ってどうして?
「折角の機会だし、もう少しいおちゃんとお
私の疑問に答えるように、璃音先輩が
「……」
おそらく、その言い分は半分本当で半分
璃音先輩は、私の方にこそ言い足りない事があるのではないかと踏んでいるのだろう。そしてそれは、車内で出来る話ではないという事もきっと気が付いている。
「分かりました。行きましょう。私も璃音先輩と、もう少し話したいなとちょうど思ってたところなので」
「そうか。奇遇だね」
こうして私は、初めて璃音先輩と学校帰りに寄り道をする事となった。
一部の生徒から羨ましがられそうなシチュエーションながらも、私はこの後の展開を想像してとても浮かれる気にはなれなかった。
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