第9話(2) 土産

 動物園を一通り周り終えた私達は、その後植物園に向かった。

 そちらの方は、今回はオマケのようなものなので、特に時間を掛ける事なくさらっと一周するだけで鑑賞を終えた。


 時刻は十六時をとうに過ぎ、楽しい時間の終わりが近付いていた。


 今日の思い出を残す意味も込めて、私達は最後にお土産ショップに足を運ぶ。

 お店には、様々な種類の物が売っていた。定番のお菓子やキーホルダーに加え、ミニタオルのような小物、そしてぬいぐるみ等々……。


 とりあえず、両親へのお土産としてお菓子は一つ買うとして、後は自分へのお土産をどうするかだが。


「ねぇ、これなんていいんじゃない?」


 ソフィアちゃんがそう言って抱きかかえたのは、大きなカワウソのぬいぐるみだった。

 その大きさはソフィアちゃんの胴体をおおいつくす程で、置き場所もそうだがそもそも持って帰るのに一苦労しそうだ。


「大き過ぎない?」

「そう? いおがこれを抱いて寝たら、可愛いと思ったんだけど」


 しかも、私が抱くのか。ソフィアちゃんならまぁと思ったが、私ではさすがにキャラ的にもビジュアル的にも無理があるだろう。


「じゃあ、小さい方?」

「んー。それなら……」


 ソフィアちゃんと動物園に行った思い出を、形として残すためと考えればなくはない、かな。


「その代わり、ソフィアちゃんも買ってよ」

「カワウソを?」

「いや、そこは別になんでもいいけど」


 ぬいぐるみの種類まで限定する気はない。あくまでも同じような物を一緒に買いたいだけで、それは全く同じ物でなくてもいい。


「じゃあ、私はマヌルネコにするわ。可愛いし」


 確かに、ソフィアちゃんが抱きかかえたぬいぐるみは、カワウソに負けず劣らず可愛かった。

 しかし、ソフィアちゃんとセットで考えた場合は別だ。カワウソには申し訳ないが、マヌルネコの方がソフィアちゃんの可愛さを百倍引き立たせている。つまり、ソフィアちゃん×マヌルネコのぬいぐるみ=超絶可愛いというわけだ。


「後、キーホルダーも買わない? 鞄にお揃いで付けるの」


 ヤダ。ソフィアちゃんがなんか、可愛い事言ってる。好き。


「いいよ。どれがいい?」


 気分はまるで、小さい子を相手にする親戚のおばちゃんだ。思わず、なんでも買ってあげたくなってしまう。


「そうね……。あ、これなんてどう?」


 色々な種類のキーホルダーが掛かったラックの中からソフィアちゃんが選んだのは、カワウソが魚をくわえた手の平サイズのぬいぐるみのキーホルダーだった。


「可愛いけど、可愛過ぎない?」


 これを鞄に付ける事が許されるのは、小・中学生かイケてる陽キャのグループくらいだろう。少なくとも、陰キャの私はそこには含まれなさそうだ。


「二人で付ければ大丈夫よ」

「そうかな……?」


 赤信号みんなで渡れば怖くないは、日本のしき風習の最たるものだと思うのだが。


「いおは、私と付けるの嫌?」


 ぬいぐるみを抱きかかえ、上目づかいでソフィアちゃんがこちらを見つめてくる。

 それは自分が可愛い事を自覚している人間にしか出来ない、究極のお願い(脅迫)方だ。


「うっ……」


 卑怯ひきょうな。そんなの、拳銃けんじゅうを突き付けているのと変わらないじゃないか。

 ゆえに、私にあらがすべはない。


「嫌じゃない、です」


 結局、こうなってしまったら、私が折れる他ない。

 とはいえ、本当に嫌だったら私もさすがにここまで簡単に引き下がらないと思うので、今回のコレは許容の範囲内、もしくは自分の中のボーダーを大きく上回らない内容だった、という事だろう。


 それに、ソフィアちゃんとお揃いの物を身に付ける事自体に異論はない、どころか大歓迎だ。もちろん物によるが、小さいぬいぐるみならまぁなんとかと言った感じだ。


 買う物が決まったため、私達は商品を持ってレジに向かう。


 ソフィアちゃんはぬいぐるみとキーホルダー、私はそれに加えお菓子を購入した。

 両親へのお土産は、動物の形をしたクッキーにした。形だけでなく色も再現された、目にも楽しい、まさにお土産に相応ふさわしい商品だ。


 お店を出ると、青空は赤色が入り混じり始めていた。

 日が落ちるのが早くなったため、必然夕方が訪れるのも早くなっている。この時期は、五時を過ぎればすっかり夕方の装いだ。


「今日ももう終わりね」


 空を見上げ、ソフィアちゃんがそう呟くように言う。


 実際にはまだ今日が終わるまで七時間以上あるのだが、もちろんそういう話ではない。暗くなり夜になると、一日の終わりを実感する。要は気分の問題だ。


「また来ようね」


 だから、そんなしんみりした雰囲気を振り払おうと、私はソフィアちゃんにそう告げる。


「うん……」


 それに対しソフィアちゃんは、深くうなずくのだった。

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