第6話(1) 被写体
そして土曜日。私はソフィアちゃんと一緒にマンションを後にする。最寄り駅までおよそ十五分。そこまで肩を並べて歩く。
服装は結局、最後に試したカットソーとデニムスカートの組み合わせにした。お母さんからの評判も良かったので、大丈夫だろう。もしダメならお母さんのせいという事で。
一方、ソフィアちゃんの格好はと言うと――
「何?」
私の視線に気付いたらしいソフィアちゃんが、そう聞いてくる。
盗み見したのが、ばっちりバレてしまっていた。
「いやー、そっちで来たかと思って」
「変? だったら、着替えるけど」
私の感想をマイナスな意味に取ったのか、ソフィアちゃんが自分の服装を見下ろし、そんな事を口にする。
「ううん。格好良くていいと思う。なんか、女の子にモテそう」
「何それ」
私の率直な感想に、ソフィアちゃんが苦笑を
いや、冗談抜きでそんな感じだ。
今日のソフィアちゃんの格好は、白い長めの丈のTシャツに下は黒のタイトなレギンスで、頭には黒いキャップを
なんだろう。中性的な美しさが増したとでも言えばいいのだろうか。その姿を見ていると、いつも以上にドキっとさせられる。
やばい。直視出来ない。私の友達、イケメン過ぎじゃない? これ私、今日一日耐えられる? イケメンの供給過多で死なない? 救急車の予約って出来たっけ? 可能なら、南川動植物園に前
「いお」
名前を呼ばれ、私の
「え? 何?」
「熱は、無さそうね」
「遠足に向かう子供じゃないんだから」
「顔がちょっと赤い気がしたけど、気のせいだったみたい」
「……」
いえ、それは気のせいではなく事実です。
というか、今もまだ少し赤いはず。ホント、十月になっても暑くてまいっちゃうな。あはは。
「動物園なんて久しぶりだから、昨日はなかなか寝付けなくて、いおにも迷惑掛けたかしら?」
「ううん。私もどうせ寝付けなかったから」
昨日は今日に備えて二人で早めにベッドに入ったのだが、そこから一時間程お喋りをしてしまい、結局、寝る時間はいつもと然程変わらなかった。その時、先に話を振ってきたのだが自分だったため、ソフィアちゃんはそれを気にしているのだろう。
「寝る前って何話してたっけ?」
「えーっと、確か、ジャコウネコは猫じゃないって話だったような……」
「そうなの!?」
寝る前の記憶がすっぽり抜け落ちているのか、昨夜と全く同じ反応を見せるソフィアちゃん。
「ネコって名前にあるのに?」
「そんな事言ったら、レッサーパンダもパンダじゃないしアライグマも熊じゃないじゃない」
「あー。言われてみれば、そうよね」
ちなみに、この会話も昨夜した。まるで、デジャブだ。
「後は、写真の話?」
「あ、それはなんとなく覚えてるわ。いおのスマホのストレージが、私の写真でいっぱいっていう……」
「他に撮るものもないしね」
それこそソフィアちゃんと会うまで、写真を撮る事なんてあまりしてこなかった。する必要がなかったからだ。
「あるでしょ。食べ物とか景色とか」
「ちゃんとそういうのも撮った上で、ソフィアちゃんの写った写真が凄く多いのよ」
私のスマホは画質が他の物と比べて格段にいいのだが、今まではそれを生かせずにいた。しかし、ソフィアちゃんと出会って、ようやくその真価を発揮する場を得たのだ。
「まぁ、いおがそれでいいならいいけどさ」
「大体、ソフィアちゃんだって、よく私の事撮ってるじゃない」
しかも、不意打ち気味に撮る事も多いので
「じゃあ、お互い様って事で」
「ソフィアちゃんが言い出したんでしょ」
雑に収めようとするソフィアちゃんに、私は抗議の意を示す。
「まぁまぁ」
「もう」
と
「そう言えば、動物園に着く前にフラッシュ切っとかないとね」
なので、ソフィアちゃんも特に私の態度を気にする様子はなかった。
「そうね」
それに合わせるように、私も私で早々と態度を切り替える。
そもそも昨夜写真の話になったのは、動物園で写真を撮ってもいいのかソフィアちゃんが聞いてきたのが発端だった。その流れで私が、フラッシュは避けた方がいいと言ったのだ。
フラッシュは動物達にストレスを与えるだけではなく、驚かせたり目を痛める原因になったりもする。そのため動物園でフラッシュ撮影はご
「見たい動物に時間を掛ける分、他の動物はチャッチャと見ないとダメよね」
「まぁ、全部ゆっくり見てたら、四時間は掛かるだろうね」
動物園だけを見るならそれでもいいかもしれないが、植物園まで見ようと思ったらどう考えても時間が足りない。
「でも、メインは動物園だから、最悪、時間が足りなくなったら植物園はまた今度って事でいいんじゃない?」
「そうね。あくまでもメインは動物園。それを忘れたらダメよね」
「なんにせよ、楽しまなくっちゃ。
「はい。いお先生」
私の言葉に、ソフィアちゃんは少しふざけた感じにそう返事をするのだった。
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