第5話(3) 予定

 果たして、動物園に来て行く服の正解とはなんだろう?

 綺麗きれい過ぎる服はなんだか違う気がする。いや、そんな服は私に似合わないという大前提は置いておくとして。


 家に帰り自室に戻った私は、ベッドに仰向あおむけに寝転がりそんな思考を働かせていた。


 服は制服から部屋着に変わっており、しわになる心配はなかった。


 うーんと考えた後、スマホで動物園+服装と調べてみる。


 まず初めに、動物園デートの見出しが目に付く。

 まぁ、女性向けファッションのページだし問題ないだろう。それに、女の子同士で出掛ける事を、デートと呼ぶ文化も確かにある。なので、二重の意味で問題はない……はず。


 とりあえず、ページを開く。


 なるほど。基本は歩きやすく汚れてもいい服で、暑さ対策も必要と。光り物は普段から付けないので関係なし。香水も付けないのでこれも問題ない。


 更にページを下に読み進め、具体的なセットアップを見ていく。


 このページでは、どちらかと言うとカジュアルな物を推奨すいしょうしている。

 スカートやパンツはミニよりロングたけ。色も派手過ぎないのが良さそう。白いズボンも、汚れが目立つので避けた方がいいと。


 少し想像してみる。


 色は黒よりあわい色合いの方がいいか。下はパンツよりスカート? 上はあえてのTシャツ? そうなると、ソフィアちゃんが前に来ていたのと雰囲気が似てしまう気もするが……。


 とりあえず、着てみるか。

 実際に着てみて、この目で確認しないと分からない事もあるだろうし。


 勢いを付けてベッドの上に起き上がると、私はそのままの流れで立ち上がった。


 箪笥たんすに近付き、引き出しを開ける。

 お目当ての物はすぐに見つかった。白地に文字の書かれたTシャツ。


 違う引き出しを開け、今度は淡い緑色のロングスカートを取り出す。プリーツが入っている。


 着てみた。


 そして、姿見すがたでその姿を確認する。


「……」


 悪くはない。悪くはないが、なんか地味だ。ソフィアちゃんの着ていた姿と比較してしまうから、余計にそう思うのかもしれない。


 他のパターンも試してみよう。

 無難なのはデニムパンツか。合わせるなら、こちらも同じくTシャツ?


 というわけで、下だけえる。


 うん。普通。というか、地味。上を変えてみるか。


 次は、Tシャツの種類を変える。


 どれもなんとなくピンと来ない。悪くはないが、良くもないといった感じだ。

 やはり、スカートか。ワンピースは……ないな。いっそ、ソフィアちゃんの家に初めて行った時の組み合わせでも……。いや、待てよ。デニムスカートという手も……。


 ロング丈のデニムスカートに、白いカットソーを合わせてみる。


 これは……有り、なのか? 無しではないような気はするが。うーん。

 あれこれ考え過ぎて、いよいよまともな判断が出来なくなってきた。

 じゃあ、元々出来ていたのかと聞かれると決してそうではないのだが、それでも今よりはもう少しマシな思考回路をしていた、はずだ。きっと。多分。おそらくは。

 ……ダメだ。一旦いったん時間を置いて、頭をクリアにしよう。


 コーヒーでも飲もうと、自室を出て階段を降りる。そしてそのままリビングへ。


「アンタ、今からどこか出掛けるつもり?」


 部屋に入るなり、ソファに座りテレビを見ていたお母さんにそう声を掛けられる。


「別に、出掛けないけど。なんで?」


 なんの脈絡みゃくらくもなく、急にどうしてそんな思考にいたったのだろう? しかも、休みの朝や昼ならともかく、こんな平日の夕方に。


「だって、その服」


 お母さんに言われ、下を向く。


 あ……。


 服を選んでいる最中だったため、今の私の格好はとても部屋着と呼べる服装ではなかった。これでは、何か予定があると思われても仕方がない。


「これは! 今度動物園に行く事になったから、その時にどんな服着ていこうか試着してて」


 なぜだが分からないが、お母さん相手にひどく言い訳じみた物言いをしてしまう。


 浮かれているようで恥ずかしかったのかもしれない。いや、実際その通りではあるのだが。


「デート?」

「違うから! 相手ソフィアちゃんだし」

「そんな、ムキにならなくても」


 私の必要以上に強い返しに、お母さんが苦笑を浮かべる。


 確かにそれは、私も思う。


「それに、女の子同士でデートしちゃいけないなんて決まり、ないでしょ?」

「いや、まぁ、そうなんだけど……」


 母親にド正論を突き付けられ、なんとなく私はバツの悪さを感じる。


 自分で言うのはいいのに、改めて人に言われると妙に意識してしまう。ホント、変な感じだ。


「なんでもいいけど、遊びに行くなら楽しんでいらっしゃい。学生時代には学生時代にしか出来ない事感じれない事がいっぱいあるんだから」


そう言うとお母さんは、私に向かって優しく微笑ほほえんだ。

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