第5話(2) 予定

 残り少なくなっていた昼休みとその後の休み時間を使っても動植物園の予定は立たなかったため、話の続きは放課後に持ち越された。

 別にソフィアちゃんの家で話をしても良かったのだが、どうせならと私達は寄り道をする事にした。場所は、何度か行っている桃咲とうさき喫茶室きっさしつ。今日は話がメインなので、一階の席に座る。


 窓側の四角いテーブルに、二人で向かい合って腰を下ろす。

 注文は、私がココアをソフィアちゃんがほうじ茶をそれぞれ頼んだ。


 飲み物が届くまでの間、私達は適当な雑談をし時間を過ごした。話の中断を避けるためだ。


 店員のお姉さんによって飲み物が届けられると、二人共まずは一口それを飲み一息吐く。


 ……そして本題に入る。


「これが園内MAP」


 そう言ってソフィアちゃんが、スマホをテーブルの中央に置く。


 画面には、南川動植物園の地図が映し出されていた。


 南川動植物園は、大きく三つの区画に分かれている。動物園、植物園、遊園地の三区画だ。その中でも一番広いのが動物園で、全体の五割以上を占める。二番目に広い植物園は全体の四割程、残りが遊園地の区画だ。

 遊園地の遊具に乗るのにはさすがにお金がいるものの、全ての区画は入場料さえ払えば行き来自由、移動し放題になっている。


「ルートは、こー行くのがいいかなって思うんだけど」


 言いながらソフィアちゃんが、画面の少し上をすーっと指でなぞる。


 ソフィアちゃんの示したルートは、入口から前進、突き当たりまで到達したら、地図上では左斜め下に描かれている場所に下がってくるというものだった。


「そうだね。いいと思う」


 ぱっと見、私もそのルートがベストのように思える。


「なら、ルートはこれでいいとして、後は何を優先的に見るか、なんだけど……」


 南川動植物園には、大小合わせて八十種類近くの動物が存在する。その全てをじっくり見ようと思ったら、それこそ一日仕事、開園から閉園までいても全部を見きれるかどうか……。


「ちょっと考えたんだけど、お互いが見たい動物をまずは、十匹ずつ挙げてくってのはどう?」


 悩むソフィアちゃんに、今度は私が解決策を提案する。


「なるほど。それはいいアイデアね。じゃあ、メモする手間もはぶけるし、見たい動物はラインで送りましょ」

「うん。分かった」


 というわけで、スマホを取り出し、ソフィアちゃんてのラインに見たい動物の名前を次々と打ち込んでいく。


『カワウソ、コアラ、カピバラ、プレリードック、レッサーパンダ、マヌルネコ、オオカミ、マレーグマ、サーバル、ツシマヤマネコ』


 送信と。


 時を同じくして、ソフィアちゃんの書き込みが届く。


『ジャコウネコ、コアラ、ツシマヤマネコ、サーバル、マヌルネコ、タヌキ、ユキヒョウ、スマトラトラ、ワラビー、フクロウ』


 十匹中四匹が被っていた。


 後、ソフィアちゃんが選んだ動物は比較的猫科が多い。

 まぁ、ジャコウネコは厳密には猫科ではないので実質五匹だが、それでも全体の半分だ。十分多いだろう。


「猫好きなの?」


 思わず、そんな事を尋ねる。


「悪い……?」

「いや、悪くはないけど……」


 少し可愛いなぁと思っただけだ。ソフィアちゃん本人も、どちらかと言うと猫っぽいし。


 ……関係ないか。


「結構被ったわね」

「サドンデスで更に二匹ずつ選ぶ?」

「サドンデスって」


 私の物言いが面白かったのか、ソフィアちゃんがクスリと笑う。


「いいわよ。やりましょ、サドンデス」


 というわけで、更に二匹を選ぶ。


 うーん。


 少し悩んだ末に私は、『アリクイ、ワオキツネザル』と打ち込む。

 すると、『アリクイ、ワオキツネザル』というまったく同じ文章がその後に表示された。


 バグ? いや、もしかして――


「被った?」

「みたいね」


 にしても、あれだけ種類があるというのに、二匹共被るか、普通。実は、趣味趣向が似ているのだろうか、私達。ふむ。


「とりあえず、この二十……はないから、十八匹を中心に見ましょうか」

「だね」


 実際には見るだけなら一通り見る事は出来ると思うので、この十八匹のみを見るわけではない。あくまでも、じっくり見るのがこの十八匹というだけの話だ。


 一段落着いたので、再びココアの入ったカップに手を伸ばす。


 しゃべってばかりで飲み物に全然手を付けないのは、やはりお店のマナー的にあまりよろしくはないだろう。


「集合時間、というか、電車に乗る時間はどうしましょうか」


 同じく、ほうじ茶の入ったコップでのどうるおしたソフィアちゃんが、そう私に聞いてくる。

 今のはあんに、電車の中で合流する事を示唆しさしたのだろう。


 別に異論はないので、そこはスルーする。


「開園時間が九時半だっけ? そこに間に合うように行く?」

「ちょっと待って。路線情報調べてみるから」


 そう言うと、ソフィアちゃんがスマホを操作し始めた。


「あー。大体、ウチからだと八十分くらいで着くみたい」

「駅から駅?」

「そう。駅から駅」


 という事は、家を出る時間は更に早くなるから……ソフィアちゃんが家を出るのは、八時前?


「もう一本後でもいいかも」

「それだと、向こうに着くのは九時五十分くらいになるわね」

「じゃあ、それで」

「オッケー。路線情報、スクショして送るね」


 すぐさま、スマホにラインが届く。ソフィアちゃんの言った通り、そこには一枚の画像が添付てんぷされていた。


 よし。これでおおまかな予定は立った。後は当日を迎えるだけだ。 それにしても、動物園か……。当日、何を着ていこうか。場所が場所だけに、なんとなくセンスが問われそうだ。

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