第20話(1) 体育祭(午後の部)

 午後の部は騎馬戦から始まる。


 男子は粘りに粘ってなんとか二位。ハチマキは一枚しか取れなかったが、一位の組が無双して四枚ものハチマキを取ったため、最終盤まで生き残ったウチのクラスが次点に収まった。

 女子は松嶋さんと高城たかしろさんと桧山ひやまさんと木野さんが出場。序盤は上手く他の組との衝突を避け、残り三組となったところでようやく動き、結果は三位で終わった。


 そこから走り高跳び、ハードル走、借り物競争と続き、現在のクラス順位は二位。一位とも三位ともポイントは僅差で、スワェーデンリレーの結果次第では一位から四位までのどこに落ち着くか分からない。


 その事はクラスの大半が意識しており、当然これから走る男子メンバーも気合十分、勝つ満面といった感じだった。

 ちなみに、男子は全員が運動部に所属していて、三走と四走に至っては陸上部で短距離を専門とする本職。順位が期待出来る面子がそろっていた。


 というか、逆に女子に一人しか運動部が入っていない方がおかしいんだよな……。それだけ聞くと勝つ気あるのかって感じだけど、ウチには最強のアンカーがいるし前の方の順位でバトンを渡せばなんとかしてくれるでしょ。


 男子のレースが始まるのを、私は三走の待機地点で待っていた。


 これが終われば次は私達、時間にしたら後七・八分後といったところだ。そう考えると、もう間もなくという感じがして更に緊張感が増す。


 ホント、早く終わって欲しい。


 そんな事を考えている間に、男子の方は準備が終わり――ピストルが鳴らされた。


 一走はサッカー部の風間かざま君。ウチのクラスのイケメン代表という事で余所のクラスからも歓声が飛ぶ。


 序盤で早々に一団を抜け出し、そのまま一位をキープ、二走にバトンを渡した。


 二走はテニス部の河本こうもと君。風間君の作ったリードこそほとんど無くなったが、なんとか順位を落とす事なく三走にバトンが渡る。


 三走は陸上部の石川いしかわ君。明らかに前の二人と比べてフォームが違う。しかし、他のクラスにもやはり陸上部はいるようで、じりじりとその差を縮められていく。二百メートルを走った辺りで二位に並ばれ、そのままバトンはアンカーに。


 四走は同じく陸上部の笠井かさい君。相変わらず一位と二位のデッドヒートが続く。

 二位と三位の差は大分離れ、一位争いはすでに前方を走るこの二人に絞られつつあった。


 笠井君も粘ったが、相手の方が自力は上なのか徐々に離され出す。

 最後の直線の時点で一位と二位の差は三十メートル。もうこうなってしまうと、逆転は難しく、見ている方もそれを察する。


 一位がゴール。そこから遅れる事数秒後、笠井君もゴールする。


 男子のスウェーデンリレーの結果は二位。立派な結果だが、本気で勝ちを狙いに行っていた男子達は悔しそうだった。


 それを見て、私の中でスイッチが入る。

 そうか。みんな勝ちたいんだ。個人の成績もあるかもしれないが、クラスとしての勝利を皆望んでいる。だったら、私も――


「続きまして、一年生女子スウェーデンリレー」


 放送席に座る女子生徒の声を合図に、八人の生徒がそれぞれのレーンに入る。

 秋元さんは四レーン。緊張しているのか、顔は少し強張こわばっている。


 その後、各々がスターティンブロックを調節する。陸上経験者はいないのか、八人共その動きはスムーズとは言えなかった。


 その間に三走の私達はトラック脇に移動する。


 二走の途中でオープンレーン――つまり、レーンの制約がなくなる関係上、初めに立つレーンは決まっておらず、また順位によって出る順番も変わってくる。そのため、ランナーが来る直前まで三・四走は近くで待機する事となる。


「位置について」


 程良いタイミングを見計らい、スタート脇に立つ男子生徒が、選手にスタートの態勢に入るよう促す。


 選手が静止する。そして――


「よーい」


 一年生最終種目である女子スワェーデンリレーの号砲が鳴らされた。


 よし。


 私はひそかに、心の中で握りこぶしを握った。


 先程の風間君同様、秋元さんも序盤で一団を抜け出す。秋元さんのそのスピードに付いてこられる者はおらず、徐々に周りとの差が広がっていく。

 特訓の成果か、気持ち他の選手より秋元さんのフォームがいい気がする。


 四メートル、五メートルと差を付け、バトンが次の走者の木野さんに渡される。


 バトンパスもスムーズだった。これなら……。


 そんな事を木野さんも思ったのかは分からない。ただ単にオープンレーンに変わるタイミングで、バトンを持ち変えようとしたのが悪かったのかもしれない。前以て練習したとはいえ、本番と練習ではやはりスピードもタイミングも気持ちだって何もかもが違う。だから、練習では考えられないミスというものは、どうしても出てしまう。だけど――


「あっ」


 その光景を見て、私の口から思わず声が漏れる。


 右手から左手に握り替えようとした木野さんの手から、バトンが無情にもすべり落ちたのだ。

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