第17話(1) 合同練習
日曜日。電車とバスを乗り継ぎ、私とソフィアちゃんは総合運動公園にやってきた。
園内には陸上競技場の他にも様々な種類のスポーツ施設が存在しており、とにかく広かった。野球場にサッカーグラウンド、テニスコートにアーチェリー場、多目的グラウンドに室内練習場、そして陸上競技場。園内にあるスポーツ施設の数と種類を聞けば、どのくらいの規模かはなんとなく想像出来るだろう。
バス停から歩く事数分、陸上競技場の正面出入り口が見えてきた。
その前には見知った顔が二つ並んでいた。ジャージ姿の秋元さんと木野さんだ。
「おーい」
木野さんが私達に気付き、大声と共にこちらに向かって大きく手を振る。
それに対し、私は普通に手を振って応えた。
二人の前まで行くと、立ち止まり、とりあえず
「競技場の使い方って誰か分かる?」
三人の顔を見渡し、秋元さんがそう誰ともなしに尋ねる。
「あ、それならソフィアちゃんが」
「前に来た事あるから」
私が代わりに答えると、ソフィアちゃんがその後に続く。
「利用の仕方は、券売機でチケット買って、受付で書類記入してって感じかな。書類はまとめて記入すればいいから、今回は私が四人分書くわ」
「さすが早坂さん、頼りになるー」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
ソフィアちゃんの言葉に、木野さんと秋元さんがそれぞれの反応を見せる。
「ここで立ち話してても仕方ないし、中に行きましょ」
言うが早いか、ソフィアちゃんが一人競技場の方に向かってそそくさと歩き出してしまう。
その隣に私は少し遅れて並んだ。
「ソフィアちゃん、もう少し愛想よくしたら?」
「なんでよ。別に友達ってわけじゃないし、最低限のやり取りが出来ればそんなの必要ないでしょ」
「でも、一応クラスメイトだし」
「……考えておくわ」
まぁ、あまり期待は出来そうにない返事だったが、突っぱねられなかっただけよしとしよう。
競技場内に入ると、券売機で四人が
この手の書類の記入項目は、団体名があれば団体名、氏名と所属、使用時間、使用目的、使用場所、貸し出して欲しい用具といったところだ。
すらすらと書類に記入を済ませ、ソフィアちゃんがこちらに戻ってきた。
「バトンは後で貸してくれるって。で、更衣室はこっち」
迷いなく進むソフィアちゃんの背中を、私達は三人で追う。
更衣室に繋がる廊下の前には、自動販売機が二台並ぶように置いてあった。
「お金やスマホ置いてくるなら、先に飲み物買った方がいいわよ」
そう言いながらソフィアちゃんが、自動販売機のボタンを押し、ジャージのポケットから出したスマホをパネルに当てる。そして、程なくして落ちてきたペットボトルを、受け取り口から取り出した。
それに
その後、更衣室に貴重品を預けると、私達は四人で競技場の中へと足を進めた。
「わぁー」
中に入るなり、背後からそんな声が聞こえてきた。木野さんのものだ。
「おっきぃ、ひろぉい」
声をあげていないだけで、秋元さんの方も似たような反応だった。
競技場の中には人影がちらほらあり、それぞれがそれぞれのスタイルで練習に
全部で八人程、だろうか。見るからに運動し慣れていそうな人から、そうは見えない人までその
「荷物は適当に……この辺りに置きましょうか」
出入り口から近い、観客席の下――屋根がある所に四人の荷物
これから動くので、上着はみんな脱いだ。
「じゃあ、立ったまま軽くストレッチして、それからウォーミングアップを始めましょう。十分後にここに集合って事で」
「ちょっといい?」
ソフィアちゃんの提案に、秋元さんが手を挙げ発言の機会を求める。
「何? 秋元さん」
「折角だし今日のメニュー? は早坂さんに考えてもらいたいの。ほら、経験者の意見って大事でしょ」
秋元さんの意見ももっともだ。ウォーミングアップ一つ取っても、経験者はやる事から動きまで全てが違う。それが、全国を目指せるレベルの人間のものなら、
「……木野さんもそれでいいの?」
「え? うん。大丈夫。なんにも問題ナッシングだよ」
にぃっと笑い、木野さんがソフィアちゃんの問い掛けに答える。
「分かった。なら、今日は全面的に私が仕切らせてもらうわ」
「おー」
ソフィアちゃんの宣言に対し、木野さんが感心したような
「というわけで、ストレッチが終わったらグラウンド五周」
「「「え?」」」
その耳を疑う内容に、三人の声が見事に重なる。
グラウンドは一周が四百メートル。それを五周となると二千メートル、つまり二キロだ。体育や部活でもないのに、ウォーミングアップで二キロ走るのはなかなか……。
「冗談よ」
「「「へ?」」」
またも見事に三人の声が重なった。
このタイミングで冗談を言うなんて、私でさえ驚いたのだから、普段のソフィアちゃんを知らない二人はもっと驚いた事だろう。
「ほら、準備出来たら行くわよ」
そう言うとソフィアちゃんは、
「あ、待ってよ、ソフィアちゃん」
私は慌てて後を追い、ソフィアちゃんの隣に並ぶ。
「ねぇ、今のって――」
私が言い掛けたその言葉は、ソフィアちゃんの横顔を目にした瞬間途中で止まった。なぜなら、顔が真っ赤だったから。
「何よ……」
「ううん。なんでもない」
私の友人は本当に可愛い。この可愛さをみんなに知ってもらいたいと思う反面、独り占めしたいともついつい思ってしまうのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます