第16話(2) お揃い

 ジョウジさんは仕事の関係で帰りが遅くなるらしく、夕食は美玲さんとソフィアちゃん、そして私の三人で取った。


 食事中、美玲さんの口数は少なかった。話を振られれば口を開くが、自分から発する言葉はほとんどが料理の味の感想や学校での事を尋ねるものと、大分気をつかわれている感満載まんさいの内容だった。


 その事を後でソフィアちゃんに聞くと、「あぁ。元から口数少ない上に緊張しいの気遣きづかい屋だから、あの人」と割とさらっとした感じで言われた。なるほど。そう考えたら、私と美玲さんは少し似た系統の性格をしているのかもしれない。


 せめてもののお礼として、ソフィアちゃんと一緒に食器を洗った後、私達は部屋に戻った。


 床に置かれたクッションにそれぞれ腰を下ろす。


「……」

「何?」


 視線を感じ、そう尋ねる。


 こちらを見やるソフィアちゃんの表情はどこかにやついており、それはもう気にしてくださいと言わんばかりだった。


「いや、なんていうか、可愛かったからつい」

「格好?」

「もだけど、着てるいおが」

「……」


 あばたもえくぼではないが、ソフィアちゃんには私に関する全てが他の人より良く見えているのだろう。それは、しを見る時のファンの心理に近いのかもしれない。


「それ、いおにあげるから」

「え?」

「あ、違うの。元々買った物じゃないし、今まで着てこなかった物だから、いおが着てくれるなら服も本望ほんもうというか……」


 私の反応を違う意味に捉えたのか、ソフィアちゃんが慌てた様子で、そう少し早口気味に弁解べんかいの言葉を口にする。


「そんなに慌てなくても」


 その様子がおかしくて、私は思わずクスリと笑う。


「だって……」

「分かった。そこまで言うなら、もらっておくわ、この服」


 以前イヤホンの時は特に考える事なく断ったが、その時と今では状況も関係性も違う。とてつもなく高価な物というわけでもないし、今回はまぁいいだろう。


「ホント?」

「うん」


 けど、こんな可愛い服、果たしてこの先着る機会はあるのだろうか。それこそ、一人で着るのはちょっと恥ずかしい。


「また二人で着ましょ」


 そんな私の思考を読んだかのように、ソフィアちゃんがそう笑顔で提案してきた。


「うん。そうだね。また二人で」


 人によっては、こんな美人と自分がペアルックなんてしたら端からどう思われるんだろうと不安に感じる人もいるかもしれないが、私は、少なくとも今の私はそこに関して何も思わない。

 美人過ぎて最早もはや比べる事すらおこがましいというのもあるが、ソフィアちゃんは私の友人であり一番星プリンセスなので、例えはたからどう思われようとも別に構わなかった。恋は盲目というが、それは他の間柄にも当てはまるのかもしれない。


「日曜日はジャージ?」


 話が一段落したところで、私はひそかに気になっていた事をソフィアちゃんに尋ねる。


「でいいんじゃない? 向こうで着替えるの手間だし」

「ソフィアちゃんは行った事あるの?」

「一回だけ。どんな感じかなって、様子見がてら。まぁ、普通の陸上競技場だったわ」


 ソフィアちゃんが何を期待して行ったかは分からないが、陸上競技場はどこも似たような物だろう。唯一ゆいいつ違いを感じられる所があるとしたら、県大会が開かれるような大きな競技場ぐらいだが、陸上部でもないのにわざわざそこに行く程の道楽どうらく精神は少なくとも私にはなかった。


「というわけで、行き方はすでに予習済みだから、当日のエスコートはこの私に任せて、いおは何も心配せずに駅まで来たらいいわ」

「じゃあ、お言葉に甘えて……」


 とはいえ、さすがに行き方くらいは事前に調べておこう。先々の行動が読めないと、やはり不安だ。


「利用料金っていくらくらいなのかな?」

「高校生以下は百円よ、確か」


 最近利用したからだろう、思ったよりすんなり私の質問への答えが返ってきた。


 って、それはそれとして――


「百円って……安過ぎない?」

「所詮は公共施設だし、利用されてなんぼって事でしょ」


 まぁ、営利目的だったら、そんな料金にはしないか。一日の利用人数も、たかが知れているだろうし。


「ただの一般人の私達が、公共施設の安過ぎる利用料金について考えても得しないどころか全くの無意味よ」

「それはそうだけど……」

「それよりも、今はもっと有意義ゆういぎな事を考えない?」

「有意義な事?」


 はて、なんだろう? 日曜日におこなう練習法とか?


「いおのね、ま、き」

「え?」

「種類はたくさんあるから、選び放題着放題ってね」


 そう言うとソフィアちゃんは、クッションから立ち上がり、クローゼットの方に向かって行ってしまった。


「まずは――」


 そしてそこから、ソフィアちゃんによる私の寝巻きファッションショーが開幕した。


 ……ソフィアちゃんは私を、小学生女児じょじが何かと勘違いしていないだろうか。もしくは着せ替え人形。どちらにしろ、残念ながら女子高生とは思われていなさそうだ。

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