第14話(2) ホームルーム、再び。

 ホームルームが終わって少しすると、


「やっほー」


 と滝本さんが私達の元にやってきた。その顔には人なつっこい笑みが浮かんでいる。


 滝本さんはとにかく大きい。身長は百八十近く。スタイルは良く、腰や手足は細いが、出る所は出ている。髪は短く、そのせいもあって全体的にスポーティな印象を受ける。容姿・プロポーションから男子にも人気はあるが、それ以上に女子からの人気が圧倒的だ。同級生だけでなく、先輩にも滝本さんのファンは多く、手紙をもらう事もしょっちゅうだという。


 まぁ、全ては聞きかじった話、現場をこの目で見たわけでも、本人から話を聞いたわけでもないわけで、実際のところは分からない。ただ、そういった噂話を信じさせるだけの魅力が滝本さんにはあった。


「水瀬さんと早坂さん、今ちょっといいかな?」

「うん。もしかして、リレーの事?」


 もしかしなくとも、それしかないだろう。滝本さんと私に接点はないし、タイミング的にも他に用事は思い浮かばない。


「秋元さん達にも話したんだけどさ。今回私と上重さんはサブに回ろうかなって」

「サブ?」


 つまり、補欠という事か。でも、一体どうして……。


「私達の部活、体育祭の数日後に大会控えててさ。運良くっていうか、私も上重さんも一年からレギュラーになっちゃって」


 あははと笑い、滝本さんが後頭部をさする。


 運良くというのは、当然滝本さんの謙遜けんそんだ。彼女の実力そして努力があって、その結果がある事は疑いようのない事実だろう。


「だから、万が一にもケガ出来ないっていうか……。あ、もちろん、もう一つの競技はちゃんとやるよ。でも、ほら、リレーってクラスの代表感強いし、なんていうか、必要以上に頑張がんばっちゃうから……」

「なるほど」


 滝本さんの言いたい事は分かる。私も同じ立場なら、同じ事を考えたかもしれない。


「というわけなんだけど、ダメ、かな?」


 上目づかいでそう言う様子は、私より二十センチ近く身長が高いというのに、まるで子供のそれのようでどこか可愛かわいらしかった。


「私は別にいいけど……」


 と言いながら、私はソフィアちゃんの方に視線をやる。そして、滝本さんの視線も当然ソフィアちゃんの方へ……。


「私は、いおが走るならなんでもいいわ」


 他に誰が出ようと出まいとそんな事は些細ささいな事と言いたげに、ソフィアちゃんがそうひとりごちるように言う。


「そっか」


 一瞬、ソフィアちゃんのその態度に驚いたような反応を見せた滝本さんだったが、


「ありがとう。じゃあ、早速秋元さん達にそう伝えてくるね」


 すぐに気を取り直し、手を振ると笑顔で私達の元を去って行った。


「つまり、リレーのメンバーは、私、ソフィアちゃん、秋元さん、木野さんの四人って事?」

「そうなるわね」


 どうやら、ソフィアちゃんは本当に他のメンバーはどうでもいいようだった。

 まぁ、とはいえ、秋元さんと木野さんとは二人共それなりに面識があるので、違うクラスメイトよりかは断然やりやすそうだ。


 そんな事を考えていると、ふいに鞄の外ポケットでスマホが震えた。


 取り出し、通知を見る。ラインが届いた事をしらせる通知が来ていた。その相手は――


「秋元さんだ」


 噂をすればなんとやら、狙ったかのようなベストタイミングだ。


 内容は、パンダが筋トレしながらおたがいがんばろうと言っているスタンプだった。


 それを見て私は、思わずクスリと笑う。そしてすぐさま、炎を背負ったやる気満々な猫のスタンプを返す。


「楽しそうね」


 隣から聞こえてきた声に、スマホから顔を上げそちらに目をやる。

 少し不満そうなソフィアちゃんの顔がそこにあった。


「そう?」

「顔、にやけてる」


 自分の口元を指差し、ソフィアちゃんがそんな事を言う。


 まぁ、楽しくないと言ったらうそになる。


 高校入学当初は、クラスメイトとこうしてラインのやりとりをするだなんて想像も付かなかった。何せ私は、数ヶ月前まで高校デビューに失敗したぼっちだったのだから。


 それもこれも全て、ソフィアちゃんのお陰。

 彼女と出会って、いや再会してから学校生活に色がともった。だから、本当にソフィアちゃんには感謝をしている。


「ありがとね、ソフィアちゃん」

「何よ急に」


 突然、なんの脈絡もなく発せられた感謝の言葉に、ソフィアちゃんがいぶかしげな表情をその顔に浮かべる。


「うーん。なんとなく?」

「何それ」


 あきれたようにそう言いつつ、ソフィアちゃんの口元には全てを見透みすかしたかのように薄っすらと笑みが浮かんでいたのだった。

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