第三章 HERO

第14話(1) ホームルーム、再び

 夏休みが終わり、二学期が始まった。


 なんだが体感的には一週間くらいしか夏休みがなかった気がするが、それだけ充実した毎日が送れていたという事だろう。


 二学期が始まったとはいえ、気持ちはいまだ休み気分という生徒も多い。

 ……かくいう私も、その一人だ。


 実力テストこそあったものの、テスト勉強が必要な中間テストまではまだ遠い。そんな状態なものだから特に部活に所属していない私達のような生徒は、どうしても気もそぞろ、集中して学校生活に迎えずにいた。


 ちなみに、実力テストの結果は、学年全体で四十位と私にしてはいい方だった。

 勉強範囲の決まっている中間や期末はあまり得意ではないが、範囲が広いこの手のテストは逆に得意だったりする。

 まぁ、とはいえ、一桁順位のソフィアちゃんには、とてもじゃないが胸を張って言えた数字ではないが……。


 実力テストの結果も分かり一段落というところで、特別なホームルームが開かれた。


 議題は加藤かとう君の体操服が盗まれた――などではなく、二週間後にせまった体育祭の出場者選考についてだ。


 文化祭の時同様、学級委員の松嶋まつしまさんと田中たなか君が前に出て、進行と書紀をおこなう。

 やはり今回も、松嶋さんが進行で田中君が書紀の役割をこなすらしい。二回中二回という事は、これが今後も定番になるのだろう。


 一方、担任の高橋たかはし先生はというと、デスクに備え付けられた椅子いすに座り、何やら瞑想めいそう中だ。

 いつもの事なので最早もはや誰も気にしていない。……大丈夫か、この先生。


「はい。静かに」


 田中君が黒板に全ての種目を書き終えたのを見届けると、松嶋さんが教卓の向こうでパンパンと手を打った。


「今から体育祭の、それぞれの種目の出場者を決めたいと思います」


 その呼び掛けでも教室は完全には静かにはならなかったが、話が聞こえないという程ではなかったので、松嶋さんは構わずそのまま続ける。


「一人最低でも一種目には出る決まりです。後、陸上部の人はリレー以外の自身の担当種目には出れませんのでそのつもりで」


 体育祭の種目は、大きく分けると二つに分類される。

 通常の陸上競技と体育祭特有の変わった競技、つまるところその二つだ。


 前者は、走り幅跳び、走り高跳び、百メートル走、ハードル走、スウェーデンリレーの五つ。後者は、二人三脚、玉入れ、障害物競走、借り物競争、騎馬戦、綱引きの六つ。

 計十一種目の参加者合計は、四十二人。二十八人いるクラス全員が参加しても、十四人分の枠が余る。最低でもというのは、そういう事だろう。


 ここまで通常の陸上競技が多い体育祭は珍しい気がする。

 その理由はおそらく、ウチの学校が陸上部に力を入れているからだろう。


 学校の敷地内にある第一運動場はタータン――すなわち、競技場と同じ材質の地面だし、その隅には棒高跳びの設備まである。陸上部にとっては、まさにいたれりくせりの状態だ。

 それで結果がともっていなければ問題だが、毎年数人をコンスタントに全国大会に出場させており、日本代表も何名か排出しているというのだから、文句の付けようがないどころかむしろまだ優遇度が足りない気さえする。


「リレーに関しては得点が高いという事もあって、立候補ではなく体育の短距離の記録を見てこちらで候補を決めさせてもらいます」


 そこに関して、クラスから特に異論は出なかった。

 お祭りとはいえ、やはりそこは得点があり順位が付くものなので、どうせなら上の順位を目指したいという意識が運動部を中心にクラスの大半に少なからずあるようだ。


「なので、まずはリレー以外の種目の立候補者をつのりたいと思うんですけど……。ちなみに、この中で陸上部に所属してないけど、陸上経験者って人は……?」


 松嶋さんの問い掛けに、私は渋々手を挙げた。


 目立つのはあまり好きではないのだが、今回ばかりはそうも言っていられない。言わずに後でバレたら気まずいし、何より背後からの視線が痛い。

 まぁ、私が自意識過剰なだけで、ソフィアちゃんの方は何も思っていない可能性もあるが。


「四人ね」


 どうやら、私達二人の他にも陸上経験者がいたらしい。


 さり気なく教室内を見渡すと、男子は佐々木ささき君、女子は高城たかしろさんが手を挙げていた。


「じゃあ、一人ずつ種目を言っててもらえる?」


 佐々木君は百メートル、高城さんは走り高跳び、私が走り幅跳び、ソフィアちゃんが百メートル、とそれぞれ告げる。


「じゃあ、とりあえずそこにその四人は出てもらうとして……後は一つ一つ種目毎に聞いてくので、出たい人は挙手してください」


 そして、種目への立候補が続々と行われていった。人数を超過したら話し合いもしくはジャンケンで決め、後は人数が足りないところに余った人が振り分けられていった。


「では、最後にリレーの候補者を発表したいと思います。まずは女子から――」


 松嶋さんによって女子の名前が順々に呼ばれていく。


 滝本たきもとさん、上重かみしげさん、秋元あきもとさん、木野きのさん、ソフィアちゃん、そして私。


 ちなみに所属している部活は、滝本さんがバレーボール部、上重さんがソフトボール部、木野さんがテニス部、そして残り三人が帰宅部となっている。

 六人中三人が運動部に未所属とは……。なんだか、すごい布陣だ。


「ケガや病気等をした時の補欠を含めた、以上六名をリレーの候補者として選びました。実際に走る人・距離はメンバーの話し合いによって決めてもらえればと思います。では、続いて男子――」


 男子も同様に六人の名前が呼ばれた。


「こちらも同じく話し合いで実際に走る人と距離は決めてください。以上で体育祭の選手選考を終わります。続いて――」


 その後、クラスTを制作する事とデザインを美術部の園田そのださんに頼んだ事が発表された。

 本来ならデザインの方も立候補生にした方が公平なのだろうが、今から立候補者を募って決めていては二週間後に間に合うかどうか分からない。そう考えれば、あらかじめ決めておいたのは賢明な判断だろう。


 そして、ホームルームが幕を閉じる。


 リレーか。実際に走るかどうかは分からないけど、もしそうなったら足を引っ張らないようにしなければ。

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