第10話(4) 浴衣

 フードコートで二人と別れた後、私とソフィアちゃんは適当に店内を見て回る事にした。

 特に目的はないため、それこそ足の向くまま気の向くままといった感じだ。


 いくつかのお店をて、私達は今、雑貨屋に来ていた。


 雑貨屋というだけあって、店内には本当に色々な種類の物が雑多に並んでいる。

 帽子にスマホケース、コップにペン、鞄にぬいぐるみと、大まかな分類上においても明らかに種類が異なる商品がまるで隣人のように席を同じくしていた。


 雑貨……ね。にしても、所狭しとって感じ過ぎないか。


「?」


 ふと頭に違和感を覚えて隣を見ると、何やら口元に笑みをたたえたソフィアちゃんが、怪しげに立っていた。

 その姿はまるで、私が犯人ですと言っているようだった。


 頭に手をやる――なんて野暮やぼな事はせず、陳列棚の中央に置かれた小さな置き鏡に自分の姿を映し見る。


 案の定、私の頭には真ん中に小ぶりなリボンの付いた青いカチューシャが乗っていた。


「何これ」

「似合うかなって思って」

「……」


 私は頭からそれを取ると、無言でソフィアちゃんに返す。


「似合うのに」

「こういうのは、むしろソフィアちゃんの担当でしょ」


 言われるがまま、一瞬の抵抗もなく、ソフィアちゃんが頭にカチューシャを乗せる。


「ほら」


 やっぱり似合う。


 青いカチューシャは金色の綺麗きれいな髪によくえ、可愛らしいソフィアちゃんの容姿にもとても合っていた。


「まぁ……」


 私同様、小さな置き鏡で自身の姿を確認し、ソフィアちゃんがそう声を零す。


 気に入らないというよりは似合って当然、あるいは面白みがないといったところだろうか。どちらにしろ、いい反応でない事は確かだった。


 カチューシャを元の場所に戻し、ソフィアちゃんが再び店内の物色を開始する。


「これなんてどう?」


 そう言ってソフィアちゃんが私に見せてきたのは、花をした大きめな装飾が付いた白い髪飾りだった。


「付けてみて」

「……」


 差し出された髪飾りを数秒見つめた後、私はそれを手に取り頭に付ける。


 髪飾りはクリップでめるタイプで、余程の事がない限り取れそうにはなかった。


「いいじゃない。可愛い」


 置き鏡をのぞき込む。


 先程のカチューシャに比べれば、確かに違和感はない。だからといって、日常的に付けるかと言ったらそれはまた別の話だ。


「なら、私のはいおに選んでもらおうかな」

「え? 二人で一緒の物を買うの?」


 というか、まだ買うとは一言も言ってないんだけど。


「そう。で、夏祭りの時に一緒に付けるの。いいアイディアでしょ?」

「……」


 なるほど。そう来たか。


 とはいえ、普通の服ではなく浴衣に合わせるのであれば……一考の余地くらいはある。


「さぁ、どうぞ」


 ソフィアちゃんが両手を広げた先には、私が頭に付けている物と同じデザインの色取り取りの髪飾りがいくつも置いてあった。


 ここから選べという事か。


 髪飾りの色の種類は全部で八つ。青にオレンジ、黄色に緑、白にピンク、赤に紫。


「これかな」


 迷わず私は、青を選び手に取る。


 カチューシャではないが、ソフィアちゃんの金色の髪にはこの中だと青が一番映えそうだ。


「じゃあ――」


 と言って、ソフィアちゃんが私の頭に付いている髪飾りを外した。


「え?」


 手に取るの、そっち?


「私がいおのを買うから、いおは私のを買いましょ。それでお互いにプレゼントするの」

「それって――」


 意味ある? という言葉を私はすんでのところでみ込む。


 さすがにそれは、無神経が過ぎるというものだ。


「分かった。なら、こっちは私が買うね」


 レジに行き、別々に会計を済ます。

 そして、店内を出た所で、髪飾りの入った袋を交換した。


 買ったお店も同じなら入っている物も色違いなだけで同じなので、当然見た目はほとんど変わらない。


「大事にするわね」


 私から袋を受け取ったソフィアちゃんは、本当に嬉しそうだった。


 お互いに買い合った物で、値段も然程高くない。なのに、ソフィアちゃんはこんなにも喜んでくれている。その事を嬉しく思う反面、彼女程には心が動かされない自分に対してチクリと胸が痛む。


 私はソフィアちゃんの事をどう思っているのだろう? 好きなのは間違いない。友人として好き。だけど……。


「いお?」


 視線を上げると、心配そうなソフィアちゃんの顔がそこにはあった。


「ごめん。なんでもない」


 そう言って私は、首を軽く横に振った。


 もしかしてそれは、自分に言い聞かせるためのまじないの言葉、だったのかもしれない。

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