第10話(2) 浴衣

 その商業施設は二階建てだった。いわゆる、町中にある少し小さなショッピングセンターだ。


 中に入ると、すぐ左側にフードコードが広がっていた。

 満席と言う程ではないが、夏休みという事もあり学生らしき若い――特に女性で席は七割方埋まっていた。その中に見知った顔を見つける。


「あ」


 見知った二人組の一方と目が合い、向こうが声をあげる。

 声をあげたのは、薄く茶味がかった長い髪を後ろで一つに縛った、少し派手めな女子。テーブルを挟んだその正面に座るのは、黒いセミロングの大人しめな女子。

 クラスメイトの、秋元あきもとさんと松嶋まつしまさんだった。


 秋元さんの方はこちらの存在に気付いたが、松嶋さんの方はまだ気づいておらず、その手に握ったスプーンを秋元さんの方に向けていた。


 松嶋さんの前に置かれた小さなパフェのような物とこの状況、そこから導き出される答えはただ一つ――


 つまり、あれの真っ最中、という事だろう。


「ん?」


 秋元さんの反応を見てか、松嶋さんがようやくこちらに視線を向ける。


「あ」


 そして固まった。


「あはは」


 それを見た私は、乾いた笑いを浮かべ、そそくさとその場を去る。


「……」


 ソフィアちゃんも無言で私に続く。


「ちょっと待った!」


 秋元さんが立ち上がり、私達に向けて右手を突き出し、声を張り上げる。

 その声に周りの視線が秋元さんに集中する。


「――っ」


 それに気付き、秋元さんがほおを赤らめ、椅子いすにストンと腰を下ろした。


 仕方ない。こうなってしまったら、見て見ぬ振りは出来ない。毒を食らわば皿まで――とは違うか。とにかく、何か言いたい事があるのなら聞こう。


 私達は顔を見合わせると、二人の元に近付く。そして、隣の席に座った。


 しばし、無言の時が流れる。

 程なくして、秋元さんが口を開いた。


「まぁ、学校近くだし、こうなる事は予想してたけど、実際知り合いに見られると……ねぇ?」


 ねぇ、と言われても……。


「というか、別にいいじゃない」


 それまで無言をつらぬいてソフィアちゃんが、頬杖を付き、吐き捨てるようにそう告げる。


「女の子同士、何を恥ずかしがる必要があるのかしら」


 確かに、ソフィアちゃんの言う通りだ。異性としていたならともかく、同性同士なら十分仲良しで済む話だろう。


早坂はやさかさんには私の気持ち、少しは分かると思うけど?」

「……」


 図星だったのか、秋元さんのその言葉にソフィアちゃんは何も返そうとしなかった。


 二人の共通点、それは……。


「こういう事しそうでしないって事?」

「「――っ」」


 私が何気なく発した言葉、それに秋元さんとソフィアちゃんがビクリと体を震わす。

 どうやら、正解だったようだ。


 二人共、表向きの性格だとこんな事くらい難なくこなしそうだが、実のところは恥ずかしがり屋なのでこれくらい普通の事と割り切れない節がある――ように思える。

 つまりは、そういう事だろう。


「私、何か買ってくる」


 突然、ソフィアちゃんがそう言って勢いよく立ち上がる。


「あ、私も」


 それに続くように、秋元さんも同じく勢いよく立ち上がった。


 そして二人は一度視線を合わすと、お店がある方へと共に姿を消した。


「ごめんなさい、邪魔しちゃって」


 話の流れが途切れた事もあり、私は松嶋さんにそんな風にして謝罪の言葉を口にする。


「ううん。私達こそ、折角のデートだったのに」

「デートだなんて、ただの行き当たりばったりのお出掛けだよ」


 何がどう違うかと言われると困るが、なんとなく予定をある程度決めて、ここに行くというのがデート、な気がする。そういう意味では、今日のは本当に無計画で、ただのお出掛けという感じだ。


「二人は夏休み中、どこか行ったの?」


 松嶋さんの言うどこかとは、それこそ近場のショッピングセンターとかではない、ちゃんとした場所という事だろう。


「あー。ソフィアちゃんのおばあちゃんのウチには行ったかな?」

「なんで!?」


 私の発した行き先に、松嶋さんが驚きの声をあげる。


 まぁ、普通そうなるよね。

 幼い頃からお互いの家族と交流があるとかでない限り、友達の祖父母の家に行くのは有り得ないとまでは言わないが、レアケースに該当がいとうする事柄だと私も思う。


「色々事情があって……」

「詳しく聞かせて!」


 急に前のめりになり出した松嶋さん相手に、私は苦笑を浮かべつつ、ソフィアちゃんのおばあちゃんの家に行く事になった経緯けいいと、実際に向こうでした事・起きた事を一つ一つ思い出しながらぽつぽつと話し始めた。

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