おまけ

SS2 着せ替え(第11話直後のお話)

 どうしてこうなったんだろう……。


 ソフィアちゃんの部屋で服を着替える事いくばくか……。最早もはや数えるのも馬鹿ばからしい程の回数を重ね、私の感情は無へと近付いていた。


「これなんてどう?」


 そう言ってソフィアちゃんが、新たな服を私に見せてくる。


「イイトオモイマス」

「そう。じゃあ、次はこれね」


 私はソフィアちゃんに言われるまま、今着ている服を脱ぎ、渡された服にそでを通す。


 それは赤いパーティドレスだった。袖は半袖、丈はひざ上。露出度は低く、そういう意味では着るのに抵抗のないデザインだった。これが華やかなパーティドレスという一点を除いては。

 とはいえ、着ないで済ます選択肢せんたくしがない事は、ここ数十分のやり取りで十分理解したので、手早く着替える。


 もうどうにでもなれ。


「おー。いい感じじゃない」

「ソウダネ」


 無感情な私とは対照的に、ソフィアちゃんは心底楽しそうに服を着た私の感想をべる。

 そして、隣に立つ。


 目の前には姿見があり、そこには赤いドレスに身を包んだ私と黒いスーツを着たソフィアちゃんの姿が。


 そう。ソフィアちゃんは今、スーツを着ているのだ。

 どうもこれが、カップルコンでのソフィアちゃんの衣装らしい。どう考えてもソフィアちゃんがドレスを着た方が目立つしえるし綺麗きれいだと思うのだが、どうやらそこには彼女なりのこだわりや作戦があるようで、何度言ってもがんとしてそれだけはゆずらなかった。


「うーん。いいんだけど……」


 そんな事を言いながら、ソフィアちゃんがクローゼットに向かう。


 そのクローゼットには何十着という服が掛けられていた。こちらはどうやら余所行き用に衣服が収納されているらしく、普段着としてはとても使えそうにない物や高そうなコート等が収められていた。


 ちなみに、この部屋にクローゼットがもう一つあり、そちらに通常の衣服は仕舞われているようだ。


「うん。やっぱ、これかな」

「な」


 ソフィアちゃんが持ってきた服を見て、私の思考が一気に覚醒した。


 その服もパーティドレスという意味では、今着ている物と同じだった。違うのは色が青いという事と、露出が多いという事だ。

 首元が大きく開いていて、胸元こそ隠れているが、これでは肩や鎖骨はばっちり見えてしまう。そして、何よりスカートのたけが短い。私が着た場合、膝上十センチで済むかどうか……。とにかく、かなり不安になるデザインだ。


「はい」

「いや、これはさすがに……」


 差し出されたそれに、私は久方ぶりに難色を示した。


 単に露出が多くて恥ずかしいという事もあるが、どう考えても私には似合わないだろう。


「大丈夫。いおに絶対似合うから」

「いや、でも……」

「じゃあ、カップルコンに出るのは止めておきましょう」

「は?」


 何? どうして急にそんな結論になるわけ? さすがに極端過ぎない?


「私はカップルコンに出るなら、いおには完璧な状態で出てもらいたいの。そうでなければ、いおに恥をかかせる事になっちゃうから」


 視線を床に落としながらそう言うソフィアちゃんの顔は暗く、なんだか私の方が悪い事をしている気になってくる。


「分かった。分かりました。着るから。着ればいいんでしょ」

「ホント?」

「ん」


 手を出し、ソフィアちゃんから服を受け取る。


「まさか、こんな簡単な手に引っ掛かるとは」

「何か言った?」

「ううん。楽しみだな。いおがその服着たらどうなるか」


 結局、こうなってしまったか。まぁ、本気で嫌がれば、ソフィアちゃんもさすがに許してくれるとは思うが、ソフィアちゃんはソフィアちゃんなりに色々と考えてくれているようだし、とりあえず乗っておこう。


 着替えが済んだ。


 うん。やっぱり、これは……。


「完璧」

「!」


 いつの間にか背後に回っていたソフィアちゃんが、私の両肩に手を置き、そう賞賛の言葉を発する。


「というか、優勝」

「何に!?」

「もちろん、カップルコンよ」


 いや、確かに、そのための衣装なのだが……。


「じゃあ、衣装も決まった事だし、行くわよ」

「え? どこに?」


 この格好かっこうでどこに行こうというのか。ソフィアちゃんの自室でも恥ずかしいというのに、これで他の場所に移動するなんて……。


「どこって、リビングに決まってるじゃない」

「リビング? なんで?」


 なぜそんな所に行かなければいけないのか、私には皆目かいもく見当けんとうも付かない。


「カップルコンの練習をするためよ」

「練習? というか、カップルコンで何やるのか、まだ私聞いてないんだけど」

「この格好見て分からない? あれよ」

「あれ?」

「社交ダンス」


 そう言ってソフィアちゃんは、にぃっと歯を見せて笑った。


 そして、ここからソフィアちゃんによる地獄の猛特訓が始まるのだが、この時の私にはその事を知るよしはなかった。

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