SS3 打ち上げ(第14話直後のお話)
「適当なとこ座って」
いつもと違う流れに困惑しながらも、ソフィアちゃんに言われるまま、私はソフアーに腰を下ろす。
ウチの物より倍程大きなテレビのやや前方に、ガラスのテーブルが置かれていた。それを挟むように向かい合わせで置かれた二脚のソフアー。その内の一つに私は今座っていた。
イレギュラーな状況だからだろうか。なんとなく変な感じだった。もしかしたら、文化祭の、もっといえばカップルコンの
「こんなのしかなかった」
そう言ってソフィアちゃんがテーブルの上に置いたのは、スナック
「飲み物はコーヒーでいい?」
「あ、うん」
動いている姿が見えるのにただ座って待っているというのも居心地の悪いものではあるが、こういう場合下手に手伝うと逆に気を
「はい」
声と共に、私の前にアイスコーヒーの入ったコップが置かれる。
「ありがとう」
それを持ってきたソフィアちゃんは、もう一つのコップを手に持ち、私の向かいに腰を下ろした。
「じゃあ、お疲れ様って事で」
ソフィアちゃんがコップをこちらに突き出してしたので、コップを手に取り、そこに軽く当てる。いわゆる乾杯というやつだ。
「それにしても、カップルコン圧勝だったわね」
「まぁ……」
なかなか自分達でそういう事を言うのは
「きっと、いおのドレス姿にみんな魅了されちゃったのね」
「そんなわけないでしょ」
「またそうやって、すぐ
「謙遜って……」
カップルコンでの紹介時や
「少なくとも、
「うっ」
確かに、カップルコン終了直後に声を掛けてきたあの二人は、私の姿を見て興奮した様子だった。とはいえ、それは彼女達の
「いおって基本
「客観視がちゃんと出来てるだけよ」
「どの口が」
なぜかジト目で
ホントなぜだろう?
ポテ――スナック菓子の袋をパーティ開けして、それをツマミに、コーヒーを飲む。
あまり食べ過ぎると、夕食に影響が出るから程々にしておかないと。……とは言うものの、この手のお菓子って、一度食べ始めたら止まらないんだよね。まったく、罪なやつだ。
「楽しかったわね、文化祭」
「まぁ、ね」
始まるまでは色々と不安を感じていたが、終わってしまえば準備も含めて全てが楽しかった、ような気がする。気持ちというものは過ぎてしまったら、思い出に変わる。その時どう自分が感じていたか……。いや、止めよう。少なくとも、文化祭が始まってから私はその時々を楽しんでいた。それは事実だ。そこは
「次は体育祭?」
「学校行事というカテゴリーならそうかな?」
その前に夏休みもあるし、何より三ヶ月以上先の話だ。鬼が笑うではないが、そんな先の話をしていては何かしらの者が笑うだろう。
「ねぇ、いおは走るのは得意?」
「別に……。遅くはないってとこ?」
平均よりは上だと思う。実際、体力テストでも下位ではなかったし。
「体育に陸上ってあるんだっけ?」
「確か……。って言っても、一通り競技やって一回ないし二回でおしまいだと思う」
球技や水泳は何度かやるのに、本当にバランスを欠いている気がしてならない。……いや別に、苦手な事を何度もやらされるのが嫌とかでは決してなく。あくまでも、学校に公平さを求めての意見である。あ、長距離走は専門外なので、そこは陸上とは切り離して考えて頂きたい。
「いお、球技苦手だもんね」
そんな私の思考を読んだように、ソフィアちゃんがそう言って笑う。
「ダンスはすぐに覚えたのに不思議ね」
そして、更に追い打ちを掛けてくる。
「それとこれとは別というか……。道具使うのはあまり得意じゃないってだけ」
なので、水泳や長距離走はどちらかと言うと得意だ。……まぁ、得意だからと言って、イコール好きというわけではないが。
「もうこんな時間」
気が付いた頃には、時刻は六時を大きく回り三十分近くにまでなっていた。
そろそろ帰らないと。
「ご飯食べて行ったら?」
「え? でも……」
ソフィアちゃんは料理が出来ないという話だから、夕食はご両親のどちらかが予め用意してくれているはずだ。となると、夕食は一人分しかないのでは?
「今からちゃちゃっと作っちゃうから」
「へ?」
作る? 何を?
「何よ、その反応」
「いや、だって、ソフィアちゃん料理出来ないって……」
確かに以前、本人の口からそう聞いた、ような気がしたのだが……。
「料理が出来るとは言えないだけよ。お弁当や本格的な夕食は作れないけど、チャーハンやカレー、パスタとかなら作れるんだから」
「なるほど……」
そう言うなら、任せても大丈夫、なのだろうか。
「で、どうするの?」
「……」
時間は遅いし、前以てお母さんに夕食がいらない事は伝えていない。普通に考えれば、帰った方がいいんだろうけど……。
「お言葉に甘えようかな」
そんな事よりも、ソフィアちゃんの手料理というワードが私の中で勝った。それに、この機会を逃したら、次いつソフィアちゃんの手料理にありつけるか分からない。チャンスは一瞬。幸運の女神は前髪しかないと言うし、折角の申し出を受ける以外の
「じゃあ、少し待ってて」
そう言うと、ソフィアちゃんは立ち上がり台所に向かう。
「何か手伝おうか?」
その背中に私は、すかさず声を掛ける。
「いいから。テレビで見てなさい」
「はーい」
そこまで言われてもしまったら、手伝う方が逆に失礼に当たる。大人しく料理が出来るのを待つ事にしよう。
と、その前に――
スマホを取り出し、今日は夕食がいらない旨をお母さんにラインで伝える。既読は付かなかったが、その内見るだろう。
用件を済ました私は、リモコンを手に取り、ソフィアちゃんに言われた通りテレビを点ける。
特に見たい番組もなかったので、適当なチャンネルに合わせる。
外に出て現地の人から教えてもらった料理を作る、料理番組だ。夕食前だし、お腹を空かせるためにもちょうどいいだろう。
テレビを見ながらも、時よりチラチラっと台所の様子を伺う。
ここから見る限り、その手際はいいように思える。本人が言ったように、簡単な調理なら問題なくこなせるようだ。
「出来たわよ」
程なくして、そう台所から声が掛かる。
掛かった時間は十分足らず。思ったよりも待たされなかったな。少なくとも、二十分は待つつもりだったのだが。
二人分のコップを手に、食卓の方に移動する。
食卓には、カウンターから見て左と右にそれぞれ三脚ずつ椅子が置かれていた。私はその左側の一番カウンターから離れた席に腰を下ろす。
「お待たせ」
ソフィアちゃんによって、お皿に乗ったミートスパゲッティが私の前に運ばれてくる。そこには更に半分に切られたソーセージと目玉焼きが乗っていた。
この辺りは家庭の色が出る。ミートボールや温泉卵を乗せるところもあるようだ。ちなみに、ウチでは薄焼き卵が上に乗っかる。その姿はまるでオムライスのようだ。
少しして、ソフィアちゃんがお皿を手に、テーブルを挟んで私の前に座る。
お皿には、私の目の前にある物と同じ物が乗っていた。
「じゃあ、食べようか」
「あ、うん」
手を合わせ「いただきます」と言ってから、お皿の
これがソフィアちゃんの手料理……。
「これがソフィアちゃんの手料理……」
「大げさな」
私の反応に、ソフィアちゃんが
というか、あまりの感動に思った事がそのまま口に出ていた。いけないいけない。変な事を口走らないように気を付けなければ。
では――
意を決して私は、フォークに
「っ!」
次の瞬間、全身に衝撃が走った。
美味しい。なんだこれは。これがいつも食べている、あのミートスパゲッティ? 美味しさが全然違う。作る人でこうも味が変わるのか。
「どう?」
視線を上げると、ソフィアちゃんが心配そうな顔でこちらを見ていた。
「いくらお支払いすればいいんでしょうか」
「……」
ソフィアちゃんは私の言葉に一瞬きょとんとした表情を浮かべた後、
「ばか」
そう言って怒り顔のような笑い顔のような複雑な表情をその顔に浮かべ、そっぽを向いた。
照れたのかな? 相変わらず
それにしても、ソフィアちゃんが作った手料理を味わえる日が来るなんて……。帰り道は気を付けよう。もしかしたら、運のぶり返しが来たりして……。
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