⁂3(2) 喝采
十四時五十分。カップルコン開始の十分前に、私達は会場である体育館に足を運んだ。
カップルコンは一年生から順に、学年
クラスの方の順番も学年同様、一組から一つずつ数字が大きくなっていく仕様となっており、そのため我が一年四組は全体の四番目での登場、時間にすると今から約三十分後に出番を迎える予定になっている。
「なんだかドキドキするわね」
自分が出るわけでもないのに、私の隣で楓はひどく落ち着かない様子だった。
「楓が出るわけじゃないでしょ」
「そうだけど……」
まぁ、気持ちは分からないでもない。正直、立候補したカップルが出る分には精々頑張ってくれというスタンスを取れるが、今回はこちらからお願いしたわけで、しかもカップルですらないという異例の事態だ。その辺りがどう転ぶか……。
壇上に実行委員の面々が出てきて、何やら場を盛り上げようと司会が頑張っている。
隅に座る五人が審査委員だろうか。リラックスした顔つきの人もいれば、緊張した顔つきの人もいる。前者が三年生と二年生、後者が一年生なのかもしれない。
前置きが終わると、呼び込みの後、一年一組のカップルが横から出てくる。当然のように男女カップルだった。格好は男子の方が柔道着、女子の方がチアの衣装を身に
格好も含めて審査の対象というわけだ。
二人の名前が紹介され、それぞれお互いのいいところを言うように司会者から促される。まぁ、いわゆる
祭りという雰囲気もあってか、観客がヤジや指笛を鳴らし、場を盛り上げる。
そして、そこから最大三分間のアピールタイムが始まった。
基本的に何をやるかは各々の自由で、このカップルはお姫様抱っこをしてのスクワットや彼女を背中に乗せた状態での腕立て伏せ等の、筋肉アピールを五つ程行った。受けはまぁまぁだった。どちらかと言うと、女子より男子に受けた感じだろうか。
その後もカップルが次々登場しては、同じ流れで最後に何らかのアピールを行っていく。
二組はデュエット、三組は大道芸のような事をして、どちらもそれなりに盛り上がった。それなり。つまりは凄く盛り上がったわけではないという事だ。
「ねぇ、そういえば、二人が何するか聞いてる?」
三組のカップルが手を振りながら
「相談はされてこれまでの傾向は話したけど、何をするかは聞いて……」
楓の言葉が途中で途切れる。
私も同じく、その光景に目を奪われた。
今までの三組の格好はインパクトこそあったものの色物系というか、どこかお祭り感があった。しかし、今現れた二人はまさに正統派。ダンスパーティにでも参加するかのような、正装に二人は身を包んでいた。
早坂さんは黒のスーツを、水瀬さんは青いドレスを着ていた。
それにしても、早坂さんがスーツで水瀬さんがドレスというのがまた憎い演出だ。
普通、お姫様のような容姿をしている早坂さんにこそドレスを着せたくなるところだが、彼女は姿勢がよくスタイルもいいためスーツ姿がよく映える。そして水瀬さんのドレス姿……。いい。実にいい。ミニスカートという事もあり露出はいつもより多めだが、それが水瀬さんの体形や雰囲気によって全然イヤらしく見えず、それでいて十分に目を引く。
これを着せた人は水瀬さんの魅力を凄く分かっていると思う。早坂さん、グッジョブ。
会場はどよめいていた。
男女ではなく女子同士のカップルで、
司会者に二人の名前が紹介されると、前の三組なんて比にならない程の大きな拍手が起きた。
そして早坂さんの水瀬さんへの言葉で、会場が更に
司会者が舞台隅に捌け、いよいよ二人のアピールタイムが始まる。
舞台中央で見つめ合う二人。まるでこれから劇でも始まるような、そんな雰囲気だった。
音楽が流れる。曲名は分からない。けれど、なんのための曲かは分かる。これはダンスの時に流れる曲だ。
早坂さんがうやうやしくお
何やら二人の間で会話が交わされた後、水瀬さんが自身の右手を早坂さんの左手に重ねて、二人の体が密着する。
瞬間、世界に二人以外のものが存在しなくなった。
いわゆる社交ダンス。早坂さんがリードをして、水瀬さんがそれに合わせる。少々の拙さなんて関係ない。息の合った二人の動きが、体全体から溢れる感情が、雰囲気が、ただただ目の前で行われている尊いものに全ての感覚を集中させてくれる。
しかし、終わりは唐突に訪れた。
早坂さんの動きが止まり、水瀬さんがすっと一歩前に出る。そして水瀬さんはその場で一度くるりと回り、正面を向いた。その後、二人同時に正面に向かってお辞儀をした。
一瞬の静寂。私を含めて観客全員がまだダンスの
そして、地鳴りのような拍手が起こる。指笛や声。その全てが壇上の二人を称賛するために行われているのは、言うまでもなかった。
早坂さんと水瀬さんが顔を見合わせ、もう一度お辞儀をする。
その結果、体育館は音の津波に飲み込まれた。
残りの組が
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