第20話(1) 出会い
その後、家の近辺を適当に散策した私達は、三十分程歩き通しだった事もあり、休憩がてら目に付いた公園に入り、そこで
自動販売機でそれぞれ一本ずつ缶コーヒーを購入すると、それを手に、私達はベンチに並んで腰を下ろす。
種類は私が微糖、ソフィアちゃんが無糖を選択した。
「のどかね」
「そうだね」
ポツリと
公園では、子供たちが元気いっぱいに遊んでいた。走り回り、ボールを投げ、ボールを蹴り、遊具を使い、砂場で穴を掘る。各々が各々の方法で今を精一杯楽しんでいた。
「いおもこの公園で遊んでたの?」
「うん。小さい頃は」
小学校三年生までは、男子も女子も関係なく外で遊んでいた気がする。それが、学年が上がるにつれ、家の中で遊ぶようになり、公園に来る機会そのものがいつの間にか減っていった。
「ねぇ、小さい頃のいおってどんなだったの?」
「何、急に」
「いや、なんとなく」
まあ、話す事に抵抗があるとかじゃないから、別にいいけど。
「自信満々で明るかったかな」
「そうなんだ」
私の予想に反し、ソフィアちゃんの反応は薄かった。てっきり、もっと驚かれると思っていたのに。
「意外、じゃない?」
なので、思わず自分から聞いてしまう。
「うーん。そうね。今のいおとは、ちょっと違うかなって思うけど」
その程度、なんだ。私に対する認識が、私自身とソフィアちゃんで大分違っているって事かな。自信満々で明るいなんて、今の私と正反対のような気がするけど……。
「ソフィアちゃんは? どんな子だったの?」
「私? 私は自分に自信がない、おどおどした、大人しい子だったわ」
「え? ホントに?」
そんな姿、今のソフィアちゃんからはとても想像出来ない。まさに真逆。一体、何があったら、こうも性格が変わるのだろう。
「引っ越しが多かった事もあるけど、私の見た目はみんなと違うから、特に小さい頃は周りの目が怖くて、なかなかみんなの輪に入っていけなかったの」
日本人は特に、みんなと同じである事を好む傾向にあるし、それを求められる事も多い。見た目の違いにネガティブな反応を示すのも、少なからずそれが影響しているに違いない。
「そうなると次第に、周りとの違いがまるでいけない事のように感じてきて、そして私はどんどん自信を失っていったの」
「じゃあ、ソフィアちゃんは何をきっかけにそれを克服したの?」
少なくとも私には、今のソフィアちゃんが自分の容姿を
「ねぇ、いお知ってる? 八年前も私、今住んでるあの辺りに住んでたのよ」
「え? そうなの?」
まぁ、引っ越しを繰り返していれば、そういう事もあるか。
「八年前。引っ越したばかりの頃、これから始まる新生活に
「それって、まさか……」
「そう。ここから歩いて数キロ先にあるあの公園」
ソフィアちゃんが家に来る道中この辺りにある公園の事を気にしていたのも、アルバムに貼られた写真を見て何かを気にする素振りを見せていたのも、もしかしてその事があったから?
「当時の事はうろ覚えだけど、人が多かった事はなんとなく覚えてる。後、子供も。だから、私はずっとお母さんに引っ付くように歩いてた。そんな私の耳に、一人の女の子の声が聞こえてきたの。キレイって」
あー。うん、これはそういう事だな。なんか話を聞いていて思い出してきた。
小学校低学年の時に家族で行った花見で、私は同い年くらいの金髪碧眼の可愛い女の子を見つけて、思わず声をあげたのだ。
「そのまま女の子は私に近付いてきて。お人形さんみたい。もしかして、お姫様って。私を右から左から興味深そうに眺めてきて……。だけど私は、
そうだったっけ? 私は正直、ソフィアちゃん程その時の事をはっきりと覚えてはいない。どこかで金髪碧眼の可愛い女の子と出会い、お話をして別れた。後覚えている事と言ったら、その子の名前がソから始まるとても発音しづらい名前だった事くらい。
「やっぱり、ソフィアちゃんがあの時のソーちゃんだったんだね」
「やっぱりって、あなた、気付いてたの」
「うん。確信って程じゃないけど、そうじゃないかなって」
割と早い段階からそう思っていた。
「いつ? いつから気付いてたの?」
「ソフィアちゃんが転校してきた日には、もしかしてそうかなって」
「初日じゃない」
言ってソフィアちゃんが、勢いよく私に
「で、でも、そんな偶然あるわけないって思い直して。けど、ソフィアちゃんの家に初めて行った時、ほら、そういう話になったじゃない? そこでかなり確信に近付いたっていうか……」
「だったら、その時に言いなさいよ」
「いや、ソフィアちゃんはインパクトあるけど、私は地味だからどうせ覚えてないだろうなって思って」
深堀して全然覚えてなかったらショックだから、あの場はすぐに引いたのだった。
「忘れるわけないでしょ。顔立ちはともかく行動は十分衝撃的だったし、何よりいおなんて変わった名前、忘れたくても忘れられないわ」
「もしかしてソフィアちゃんは、最初から私だって気付いてたの?」
「私も確信はなかったけど、初めて見た時にピンと来たっていうか……。で、名前がいお。もう間違いないじゃない」
「だったら、ソフィアちゃんこそ言ってくれれば良かったのに」
そうしたら、もっとスムーズに仲良くなれていたかもしれない、なんて思ったり?
「嫌よ。私だけ覚えてたり特別に感じてたりしたら、恥ずかしいもの」
「私と同じじゃない」
「そうね」
「「……」」
少しの空白の後、二人で顔を合わせて笑う。
「あーあ。結局、私から言う事になっちゃった。いおのせいだからね」
「そう言われても……」
私の責任ではないし、今更どちらが言ったかなんてどうでもいいのでは?
まぁ、別にソフィアちゃんも本気で言っているわけではなく、照れ隠しだとは思うが。
「ねぇ、ソフィアちゃん」
「何よ」
照れ隠しの一環か、ソフィアちゃんが不機嫌そうにそう返してくる。
「今から行ってみない?」
「どこに?」
「だから、その公園に」
「でも、遠くない?」
「遠いって言っても二キロくらいだし、歩けない距離ではないでしょ」
目的もなく行くには遠い距離だが、目的があれば行かない理由になる程の距離ではない。
後は、ソフィアちゃんの返事次第だけど……。
「……うん」
数秒の間の後、ソフィアちゃんがこくりと
こうして私達の次の行き先が決まった。
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