第14話(1) 会場の主役
体育館近くの更衣室で着替えて、舞台裏に向かう。
舞台裏にはすでに五組のカップルがいて、各々
かくいう私も、まるで結婚式かはたまたピアノの発表会に出るのかという格好をしており、ひどく恥ずかしい思いだった。
私の今着ている服は、いわやるパーティードレスと呼ばれるものだ。
色は青。肩や鎖骨がばっちり出るデザインをしていて、スカート丈も大分短い。胸元こそ隠れているが私的には露出度が高過ぎて、この格好で人前に出るのは相当な勇気がいった。自分ではまず間違いなく選ばない服装だ。
周りの視線が痛い。
こちらを見て皆が何やらひそひそと話している。どうせ似合わないとかそういう事を言っているのだろう。私自身がそんな事は十分分かっているので、もう放っておいてくれ。
「ふっ。勝ったわね」
そう言って隣で勝ち誇るソフィアちゃんは、黒いスーツ姿だった。
なぜ私がドレスで、ソフィアちゃんがスーツなのだろう。絶対ソフィアちゃんがドレス着た方が似合うのに。
この場にいる生徒達は皆一年生だ。
カップルコンは一年生から順に学年
審査員はカップルコンの実行委員の面々で、審査結果は五人がそれぞれ、全員のアピールタイムが終了した後、誰が良かったか発表していき多数決で決めるというスタイルになっている。もし票が別れた場合は、五人で話し合って優勝者を決めるらしい。
部屋の隅に座り込み、丸くなる。
なんでこんな事になってしまったのだろう。私は地味で根暗なクラスの余り物だったはず。なのに、何がどう間違ってこんな場に引きずり出されてしまったのか。
ソフィアちゃんと知り合ったから? まぁ、理由はそれしかないよね。私みたいな人間が表舞台に上がるためには、私という闇を吹き飛ばす程の強烈な光が必要だ。その点、ソフィアちゃんは
「それでは一組のカップルから舞台に上がってください」
実行委員らしき女子生徒が舞台裏に呼び掛け、ひと組のカップルが壇上へと向かう。
とうとう始まってしまった。後は順番を待つだけ。気分は判決を待つ容疑者か何かのようだ。
「緊張してるの?」
ソフィアちゃんが隣に座り、そう声を掛けてくる。
「そりゃ、口から心臓が飛び出るぐらい緊張してるよ」
先程から自分の心音がうるさい。そしてその事が、余計に私の緊張を高めていく。
「大丈夫。私が付いてるんだから」
「うん……」
それはそうなのだが、そう簡単に割り切れないのが人の気持ちというやつである。
舞台裏にまで聞こえてくる歓声。何かやってウケたのだろう。果たして私達はあんな風に歓声を
ひと組目のカップルが戻ってきて、ふた組目のカップルが代わりに呼ばれる。
刻一刻とその時は近付いてきていた。
「他のカップルは何やってるのかしらね?」
「さぁ……」
「しりとりでもする?」
「え?」
まさかの発言に、思わずソフィアちゃんの顔をまじまじと見つめる。
冗談? では顔を見る限りなさそうだ。けど、ソフィアちゃんとその発言がどうしても繋がらなかった。
「いや、何もしないでいるよりは、何かしてる方が緊張しないで済むかなって」
確かに、こうしてネガティブな思考を
「じゃあ、りんご」
「ホントにやるんだ」
「ちょっと、ソフィアちゃんが言い出したんだよ」
「ごめんごめん。りんご。ごりら」
「ラッパ」
「パイナップル」
そこからしりとりのラリーが延々と続き――
「次、三組のカップル、舞台に上がってください」
遂に、私達の一つ前のカップルが舞台上に消えていった。
その姿を見て、しりとりをしている間は忘れかけていた緊張が途端ぶり返す。
「いよいよ次ね」
そう言って、ソフィアちゃんが舞台の方に目をやる。
「ねぇ、ソフィアちゃんは緊張してないの?」
「別にしてない」
「なんで?」
「なんでって、緊張する必要がないから。これは発表会でもなければ裁判でもない。ただの文化祭の余興。どこに緊張する要素があるって言うの?」
それはその通りなのだが、理屈では分かっていても心が認めないという事は多々ある。今の私がまさにその状態だ。
「このドレスも、ソフィアちゃんが着れば良かったのに」
「それについては試着の時にも説明したでしょ。いおが着た方が映えるんだって」
「そんな事言われても……」
誰がどう考えてもこのドレスはソフィアちゃんの方が似合うし、華があるのも明らかに私よりソフィアちゃんの方だ。もちろん、ソフィアちゃんのスーツ姿は格好いいし
「あー。もう」
「!」
突然ソフィアちゃんが自分の髪を乱雑にかきながら、苛立たしげな声を出す。
「自分が信じられないって言うなら、私を信じなさい。超絶美少女の私が可愛いって言ってるんだから、誰がなんと言おうとあなたは可愛いの。分かった?」
「……」
ソフィアちゃんの勢いに圧倒され、私は思わず言葉を失う。
「分かった?」
「はい……」
「分かればいいのよ」
そう言うと、ソフィアちゃんはフンっと鼻を鳴らした。
「次、四組のカップル、舞台に上がってください」
いつの間にか前のカップルが戻ってきており、ついに私達の番がやってきた。
「ほら、行くわよ」
ソフィアちゃんがそう言って、私に手を差し伸べてきた。
「……」
私は少しの
「頑張りましょ。私のお姫様」
その言葉と共に、握った手がグッと引っ張られる。そして、自然と私は立ち上がり、舞台へと一歩足を踏み出していた。
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