第10話(2) メイド服
制服を脱ぎ、木野さんから受け取った衣装に
スカート丈はむしろ制服より長く、露出も多いわけではない。なのになんだろう、この気恥ずかしさは。
隣にいたソフィアちゃんと目が合う。
「悪くないんじゃない?」
ソフィアちゃんはそんな事を言ってくれたが、その言葉を発した当人が可愛い過ぎて言葉が上手く頭に入ってこなかった。
やばい。これはあれだ。やばいやつだ。
「何よ」
私が何も言わず口をパクパクしているせいで、ソフィアちゃんが
「
先陣を切ったのは木野さんだった。そこから口々にソフィアちゃんへの
「え? 嘘。同じ服?」
「可愛い過ぎん?」
「ちょー可愛い。写真撮っていい?」
「早坂さんとなら私結婚出来るわ」
「これで接客したら冗談抜きに騒ぎになるんじゃ……」
六人から三者三様ならぬ六者六様の反応を浴びたソフィアちゃんは、至ってクールな立ち振舞いで、
「みんな大げさ」
とだけ告げた。
「いやいや、日頃早坂さんを見慣れてる私ですらこんなにテンション上がってるんだから、所見の人はもう大変な事になるって」
「いいんちょーの言う通りだって、早坂さんはもっと自分がどれだけ危険な存在か自覚した方がいいと思うな」
松嶋さんの言葉に、桧山さんがここぞとばかりに追従する。
「危険って……」
ソフィアちゃんは苦笑を浮かべて取り合おうとはしなかったが、私は二人の意見に大賛成だった。ソフィアちゃんのメイド姿は破壊力満点で、今も私はノックアウト寸前だ。
「? いお?」
ぼっと
そしてようやく私は我に返った。
「可愛い……」
「え?」
「
「な!?」
私の心からの発言に、ソフィアちゃんの顔が一気に赤くなり、更に周りもざわつく。
「あ、物の例えだから。本当に持ち帰るわけじゃないから」
「当たり前でしょ!」
怒られてしまった。素直な気持ちを伝えただけなのに……。
「そういうあなただって、その、可愛いわよ?」
「ありがとう。例えお世辞でも、ソフィアちゃんにそう言ってもらえて
「あなたはすぐそうやって――」
「はいはい。二人共いちゃついてないで、並んで並んで」
ソフィアちゃんの言葉を遮るように、木野さんが私達にそう声を掛けてくる。
「別にいちゃついてないわよ!」
と言い返しながらも、その言葉に素直に従うソフィアちゃん。
「ほら、
「あ、うん」
よく分からないが、とりあえず言われた通りにしよう。
左から、松嶋さん、秋元さん、ソフィアちゃん、私という順番で窓側に並ぶ。
「じゃあ、撮るよ。はい。三、二、一」
木野さんの指の動きに連動して、スマホからカシャという音が鳴る。
「見せて」
秋元さんが木野さんの元に近寄り、他の三人もその後に続く。
四人で木野さんの持つスマホを
秋元さんは撮られ慣れているのか笑顔、松嶋さんはやや笑顔、ソフィアちゃんは真顔、私は不安そうな表情とやや対象的な絵となった。
やはりこう見ると、私一人が浮いて見える。
ソフィアちゃんは超絶美人、秋元さんも美人に分類される顔立ちをしており、松嶋さんも控えめながら整った顔立ちをしている。
一方私はというと、地味で冴えない上に表情も固い。接客がもし指名式なら、きっと私は一生選ばれず店の飾りと化す事だろう。
改めて自分が場違いな事を認識する。
「いお、こっち見て」
「え?」
ソフィアちゃんに言われ、顔を上げるといきなりスマホで写真を撮られた。
「ちょっとソフィアちゃん」
「うーん。ダメね」
スマホに視線を落とし、ソフィアちゃんがそう
「そんな事……」
言われなくても分かっている。いくら服が可愛くても着る人間がダメなら、可愛くは撮れない。
「いお、メイド服って何がいいの?」
「え? そりゃ、主人に仕える奉仕の心が体現されているというか、給仕する上で極限までに性的な要素をなくし、尚且つ動きやすさを追求した究極な仕事着なのに、そこに可愛さや美しさが感じられるのが――」
「なるほど」
私が
「ちょ、何急に」
話を振ってきたと思ったら、その最中で写真を撮るなんてソフィアちゃんは一体何を考えているのだろう。
「うん。いい感じ」
そう言ってソフィアちゃんが、私に自分のスマホを向けてくる。
そこには、楽しそうに語るメイド服姿の私が写っていた。
確かに、先程の暗い表情のものよりは何倍もいいが、それでも所詮は私の写真だ。良さは感じられない。
「私はいいと思うな。いおのメイド服姿も」
「……」
ソフィアちゃんは優しいからそんな風に言ってくれるけど、店に来るお客さんはそうはいかない。なんだあの子。一人だけ浮いてる。恥ずかしくないのかな。客の心の声が今からもう想像出来る。
「木野さん、いおのこの格好どう思う?」
「え? 可愛い。水瀬さん、落ち着いた感じだからメイド服似合うし、顔も可愛いから、とにかく可愛い」
「だってさ」
木野さんは表裏がない人だと思う。
人は誰しもその場その場に合った自分を演じるものだが、木野さんにはそれがあまり感じられない。
なら、その言葉を信じてもいいのだろうか。可愛いというその言葉を。
「ほら、そこの二人、早く着替えて。まだやる事残ってるんだから」
秋元さんの言葉に周りを見ると、秋元さんと松嶋さんはすでに服を脱ぎ終えており、その服を藤堂さんと桧山さんが
それを見て、慌てて私も服を脱ぎ始める。
「はい」
そう言って木野さんが手を出したため、脱いだ服を彼女に渡す。
「ありがとう」
「どういたしまして」
先程と同じやり取りに、私はなぜだか自然と口元が
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