第9話(2) ホームルーム
それから数日後の五時限目。現代文の時間に特別にホームルームが開催された。
議題は
なぜ現代文の時間かというと、単純に現代文の担当教諭が担任の
先生のデスクの上に置かれた箱を学級委員の
朝のホームルームで小さな紙が配られ、そこに自分の希望する出し物を記入し、昼休みが終わるまでにあの箱に入れておく事と私達は高橋先生に言われていた。みんながその指示に従っていれば、あの中には二十八人分の意見が漏れなく入っているはずだ。
「それでは開封していきます」
そう言って松嶋さんが箱を開ける。
黒板の前には、チョークを持ったもう一人の学級委員の
「お化け屋敷」
こうして松嶋さんによって二十八人分の意見が読み上げられ、それが田中君によって黒板に書き記された。
気になる結果は――
「迷路二票、展示三票、お化け屋敷八票、喫茶店十五票。以上の結果、一年三組では喫茶店を行う事となりました」
やはりそうなったか。思ったより差は付かなかったが、結果は私の予想通りだった。ちなみに私は、お化け屋敷に入れた。理由は人前に顔を出さなくて良さそうだから。例えお化け役でも薄暗いし変装もするから、こちらの顔は分からないだろう。
「では、続いて喫茶店の詳細を決めたいと思います」
前以て調べたのだろう、松嶋さんが飲食を扱う上でのルールや注意事項をすらすらと述べていく。
「なので、飲み物に関しては、インスタントコーヒープラスペッドボトルの物をカップとコップに入れて、食べ物は市販の物を使うか作るとしてもホットケーキぐらいが無難でしょう」
そこら辺の内容については、特に皆こだわりがないようで異論は出なかった。
「次に衣装ですが――」
「はいはい」
そこで初めて手を上げ、意見を言う者が現れた。クラスの中でもカーストの高いグループに所属し、その中でも中心的存在の
「どうせなら
秋元さんの意見にクラスがざわつく。大半の女子は
「はい。静かに。ユニフォームについてはまだ決まってないので、過度な露出がないものなら大丈夫ですが。反対意見のある人」
手を上げる者はいなかった。まぁ、例え反対意見を持っていたとして、ここで手を上げる勇者はさすがにいないだろう。何しろ女子の大半がおそらくグルなのだろうから。
「となると、後はこの衣装をどこから調達してくるかですが……」
同時に何人がホール係をやるかは分からないが、少なくとも一着やニ着を用意すればいいという話ではないはずだ。教室の広さを考えると、呼び込みを含めて四人ないし五人といったところか。
「予算はいくらなの?」
今度は、秋元さんと同じグループの
「学校側から一クラスに配布される予算は、二万円という事になってます。ですが、装飾や飲食込みの値段なので、実際に衣装にいくら使えるかは……」
やってみないと分からないという事か。とはいえ、衣装に一万円を使って、後は一万円で全部
「とりあえず、衣装は保留という事で、またいい案があれば学級委員か先生に相談してください。続いて担当を決めたいと思います」
デザインは秋元さんのグルーブが立候補し、買い出しには一部の男子が立候補した。そして、後の前準備はクラス全員が行うという事になった。もちろん、部活などで忙しい人もいるからその辺は要相談となる。後は当日の振り分けだが、まぁこれもどうせホールには秋元さん達のグループが中心に出たい人が出るだろうから、問題は裏方の方か。
「はいはい」
そこで秋元さんがまた手を上げる。
「はい。秋元さん」
「ホールなんですけど、
「は?」
思わず声が出てしまった。
ソフィアちゃんはまだ分かる。なぜそこで私の名前が出る? これはあれかイジメか。イジメなのか。
「なんで? 秋元さん達がやりたいんじゃないの?」
背後から声が聞こえた。ソフィアちゃんの声だ。その声に感情らしい感情はなく、その事を私は意外に思った。
そういえばこの前話した時も、ソフィアちゃん特に嫌そうにはしていなかったっけ。マズイ。このままでは……。
「けど、二人って目を引くから、お客さんいっぱい来るかなって」
秋元さんがこちらの方を見て、そう口にした。
二人? ソフィアちゃんだけじゃなくて、そこに私が入っているのが謎だ。至って普通の容姿をしている私を捕まえて目を引く? 嘘を吐くにしても、もう少しマシなものを考えた方がいい。
「分かった」
分かっちゃった!? 分かっちゃったの? それじゃ私までホールを担当する事に……。
「その代わり、一つ条件があるわ」
「条件? 何?」
ソフィアちゃんの言葉に、秋元さんが優しく
「私といおは同じ時間帯の担当とする事」
その条件に教室がざわつく。今度は男子だけでなく、女子も一緒に口々に言葉を発している。私とソフィアちゃんの関係は公にはしていないので、そのせいもあるだろう。
「静かに。静かに」
松嶋さんの呼び掛けで、クラスがようやくある程度の静かさを取り戻す。しかし、動揺はまだ広がったままだ。
そんな中、秋元さんが口を開く。
「もちろん、初めからそのつもりよ」
こうして私の意志とは関係なく、文化祭当日の私の役割が決まってしまった。
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