第7話(2) 答え
「いおちゃん……どうかした?」
気が付くと、いつの間にか図書室に着いていた。
道中の記憶がほとんどない。考え事をしていたせいで、無意識に移動していてようだ。
「暗い顔してるけど、何かあった?」
「え? まぁ……」
確かにあった。けど、それは璃音先輩に聞かせるような話ではない。
「そんな暗い顔でいられると気になるんだけど」
「すみません」
怒られて当然だ。これから委員会の仕事をしなければいけないというのに、その相方がこんな調子では気分が悪くなる上にやりづらいだろう。
「とりあえずここに座る」
そう言って、璃音さんがポンポンと自分の隣にある椅子を叩く。
「はい……」
私は言われるがままカウンターの中に入り、そこに座った。
「で? 何があった?」
「いや、その……」
「言いたくないならそれでいいけど、私に遠慮してるならその遠慮はいらないから。私達バディでしょ」
冗談めかしにそんな事を言って、微笑む璃音先輩。
「実は――」
私はかいつまんでこれまでの経緯を話した。とはいえ、私にも何がなんだか分からず、何をどう話せばいいのか分からないのだが。
「理由は分からないんだ?」
「はい。そもそも昨日の放課後から朝まで、私達の間に何もなかったんですから」
顔を合わす事はおろか、電話やラインのやり取りさえない。それなのに急に不機嫌になられても、正直知らんがな状態だ。
「その友達ってどんな子?」
「金髪碧眼のクォーター美人です」
「いや、容姿じゃなくて――ん? 金髪碧眼?」
「どうかしました?」
私の言葉を繰り返した璃音先輩が、急に黙り込む。
「あー。え? でも、それでなんでそうなるんだ?」
自分の中で自問自答しているのか、何やら璃音先輩が一人で会話をしていた。
「まだ情報が足りないな。その友達について、もっと内面的な情報を教えてくれない?」
内面……。
「早坂さんは人付き合いが苦手で人に合わせるのが嫌いです。家はお金持ちで金銭感覚がズレてます。後、漫画やファッション誌は読むけどそれは趣味じゃないと言ってます。恋が分からず勉強したいとも言ってました。そのため私に恋に関するお勧めの小説を聞いてきて……」
「なるほど」
私の話の途中で、璃音さんがそう呟くように言った。
「え? 今ので何か分かったんですか?」
話している私はさっぱりだと言うのに、やはり賢い人は違うな。
「多分だけどね。その早坂さんの事で、君が知らなくて私だけが知ってる情報が実はあるんだ」
「それって……?」
「昨日私達が話してる最中、出入口の所からこちらを覗いてる女生徒がいたんだ」
女生徒?
「つまり、それが早坂さん?」
「ご名答」
「でも、璃音先輩は早坂さんの顔を知らないはずじゃ……」
「そうだね。顔は知らない。けど、金髪碧眼の生徒なんてこの学校に、一年に転校してきた噂の美少女しかいないんじゃないかな」
「あ……」
そうか。顔は知らなくても、それなら覗いていた人物を早坂さんと断定する事が璃音先輩にも可能なわけだ。
「けど、早坂さんが昨日私達のやり取りを覗いてたとして、それでなんで不機嫌になるんです?」
「答えを教えてもいいんだけど……時間はまだたっぷりある。ここはクイズ形式といこう」
「……」
実はこの状況を楽しんでないか、この人。
……まぁ、時間があるのは本当なので、別にいいけど。
「第一問。早坂さんはなぜ君にお勧めの小説を聞いてきたのか?」
「それは、だから、恋の勉強のため……」
「その理由が嘘とは言わない。けど、他にも違う理由があるはずだ」
違う理由? なんだろう?
「では、君ならお勧めの小説を読んだらどうする?」
「可能なら相手に感想を伝えます」
相手が望んでいなければその限りではないが、出来ればそうしたいと思う。
「つまり、お喋りのネタが出来るわけだ。その上、小説の内容を共有出来る。そして更に相手の好みも分かると。恋の勉強も合わせれば、まさに一石四鳥な行動じゃないか」
という事は、つまり――
「君と仲良くなりたかったんだろう。恋の勉強はもしかしたら、その口実かもね」
そんな。早坂さんが私と? だとしたら、嬉しいけど。でも……。
「第二問」
まだ続くのか!
「早坂さんが私達の会話を聞いてたとして、彼女が一番気になったところはどこかな?」
「そんなの――」
「分かるわけない? ホントに?」
私の困惑する様子が面白いのか、璃音先輩がにやりと笑う。
璃音先輩がそういう顔をするという事は、推理するためのヒントはすでに盤上に出尽くしているのだろう。
「
ん? 僅かにだが、早坂さんというワードが今強調されたような?
早坂さん。早坂さん。早坂さん。……まさか。
「その顔は気付いたようだね」
「けど、そんな事で早坂さんが不機嫌になるなんて」
「早坂さんは人付き合いが苦手で人に合わせるのが嫌いなのだろう? 転校してきて間もないはずだが、友達は多いのかな?」
いや、早坂さんは私の知る限りでは、私以外とは会話らしい会話をしていない。だから?
「他の誰でもない、君を選んだのだろう。だからこそ、不機嫌になった」
だとしたら、早坂さんには申し訳ないが、それはとても嬉しい事だ。
「本人に確かめてみたら? そして、とっととわだかまりを解いてくるといい」
そう言って、璃音先輩は優しく微笑んだ。
明日直接伝えよう。そのために後でラインを送ろう。昼休みにいつもの場所で待っていると。
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