第2話(2) 友達
翌日、私は朝からそわそわしていた。理由は昨日陽ちゃんと話した早坂さんの写真の件だ。
学校が違うため適当に誤魔化す事は出来る。けど、それはなんだか陽ちゃんを裏切るようであまりしたくなかった。
陽ちゃんは誰にでも優しい子だった。特別私とだけ仲が良かったわけではなく、それでも私によく声を掛けてくれた。多分、中学時代は、陽ちゃんがいたから繋がれていた友達もいたと思う。いや、中学を卒業してはっきり分かった。私が私の力で作った友達なんて、本当は一人もいなかったのだ。思えば、誰かと二人きりで遊んだ事など数える程しかなかった。結局私は、その他大勢であって誰かではなかったのだろう。それは分かっている。けど……。
気が重い事があるからか、いつも以上に午前の授業はあっという間に終わり、いつの間にか昼休みになっていた。
私はいつものように一人で教室を出て、あの場所に向かう。
早坂さんが少し遅れてやってきて、私達は下の段と上の段に分かれてそれぞれ食事を取る。
食事中も考えるのは、写真の件だった。
どうやって切り出そう。早坂さんはオッケーしてくれるかな? 正直に全部言う? いや、でも……。
「何か言いたい事があるなら、言いなさい」
「!」
心を言い当てられ、私は思わず動揺が隠せなかった。
「エスパー?」
「バカ。顔とか雰囲気見てたら分かるわよ」
「……実は――」
私は昨日あった事をかいつまんで話した。本屋で中学の同級生と会った事。見栄を張って早坂さんを友達だと言ってしまった事。その結果写真を送って欲しいって言った事。
「はー」
私が全部話すと、早坂さんはそう大きく
呆れられたのだろう。嫌われたかもしれない。
「ゴメン。ちゃんと無理だったって言うから」
だから、私の事を嫌わないで欲しい。友達になってなんてだいそれた事思わないから、今まで通りお昼は一緒に取って欲しい。
「スマホ貸しなさい」
「へ?」
「早く」
「はい」
訳が分からないまま、私は鞄からスマホを取り出し早坂さんに差し出す。
「あなた、ロックしてないのね」
「え? あ、うん」
「落とした時危ないから、ちゃんとしときなさい」
「はい」
それはもうごもっともな意見だ。
何やらスマホを操作すると、早坂さんが上の段まで登ってきた。そして私の隣に腰を下ろす。
「え?」
「行くわよ」
そう言うと早坂さんは、私のスマホを前方に突き出した。
「はい。三、ニ、一」
カシャという音と共にスマホが一瞬光った。
早坂さんがもう一度スマホを操作する。
「ま、いっか。はい」
突然返されたスマホを、私は慌てて受け取る。
そこには、控えめな笑顔を浮かべた早坂さんときょとん顔の私が写っていた。
「写真写りついての文句は受け付けないから。どうせその子に見せるだけでしょ」
「え? あ、ありがとう」
ようやくそこで、私は早坂さんが私のために写真を撮ってくれた事に気付く。
「言っとくけど貸しだから」
「え?」
「当然でしょ。私とのツーショットなんて激レアよ」
「私は何をすれば……」
やはりお金だろうか。いや、早坂さんの家はお金持ちだ。要求されるとしたら、もっとこう行動が
「そんなビビらなくても、大した事要求しないわよ」
「はぁ」
そう言われても、失礼ながら早坂さんからの要求というだけで、なんだか恐ろしいものを想像してしまう。
「ちょっと今は思い付かないから、その内言うわ」
「あ、うん」
もしかして私は、早坂さんとの写真と引き換えに、とんでもない対価を背負ってしまったのではないだろうか。……まぁ、分からない事を考えても仕方ない。今はこの写真を手に入れられた事を素直に喜ぼう。
早速私はスマホを操作し、陽ちゃんに今撮った写真をラインで送った。
返信はすぐに来た。
「めっちゃくちゃ美人さんだねだって」
「当然でしょ」
言葉ではそう言いつつも、早坂さんの後ろ姿はどことなく嬉しそうだった。
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