十五 魂降り
祭祀の支度をしてご神体へたどり着いたシシとコマの上に、バラバラと大粒の雨が降りつけてきた。
「酒が薄まる」
「今そこは問題じゃないよな?」
問題は酒の味よりも、ぐんぐんこちらに近づいてくる二羽の
彼らは口から火を吐くと言われているが、それは雷となって地を襲う。雨を降らす山の天狗たる
神というものは荒ぶり始めると地上や人がどうなろうと知ったこっちゃないところがあるが、無茶をしないでほしいものだ。こちらはこちらで物事を治めようとしているのだから、少し待ってもらいたい。
二人がかりで岩に
強くなる雨の中、
雷鳴が少しずつ近くなっていた。
コマが目を細めて雨の叩きつける空を見上げる。
「連中は、引き受けた」
「任せる」
シシは頼もしい相棒に背中を預け、二人の使える神に向き合った。
「
凛として静かに
石座神を降ろし、鎮め、祀りさえすれば、
それまでシシの邪魔をさせない。それがコマの役目だった。
「
空に稲妻が走り、ドンと
何をしやがる烏天狗どもめ。
コマは犬の姿の時のように鼻面に皺を寄せ、空を舞う影を睨みつけた。
「
また閃光が走りダン、と衝撃がくる。
どうやら結界を破った者の
なんとまあ乱暴なブチ切れ方だ。虫の居所でも悪かったとみえる。
「
シシの口から
ずぶ濡れになりながらも渾身の力を乗せた
だがピリ、と総毛立つ物を感じてコマは
ドオォン!
降ってきた
それは杜を焦がしお堂をかすり、斜めに空を走って消えた。
さすがにひっくり返ったコマはフラフラしながらも跳び起きようとして、ゾッとした。
神気が
ここは今やほぼ
今の雷でお堂にあった鏡が割れた。神鏡で
こうなったらこれを機に、
「
シシは据わった目で言霊を紡ぎ続けている。
とろりとした神気が、シシの上に集まりつつあった。
「
「この石座に
雷とは比べ物にならない衝撃が降り、コマは吹っ飛んだ。
顔に打ちつける雨を感じて地面に転がったまま目を開けたコマは、そこが再び常世の神気に満たされていることに気づいた。
首を起こすと、平然と振り返るシシの姿がある。立ち上がってコマの所まで来ると、腕を差し出した。その腕をがしっと掴んでコマも立ち上がる。
「突っ立っているから弾き飛ばされる―――だが助かったぞ、狛犬」
「いや。さすがだな、獅子」
「ところであいつらは私達を殺す気か?」
忌々しげに上空を睨むと、くるくると旋回していた烏天狗が北へと飛び去って行くところだった。我に返ったらしい。
「天狗の
カリカリと怒るシシだった。祝詞に没頭しているのかと思いきや、周りは見えていたらしい。
―――しかし、このように常世が戻せた今。
気になるのは、童子のことだった。
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