六 座敷わらしのレゾンデートル
神社の
だが
「ざーさんは、神社に来る前どこにいたの?」
「
童子はすっかり地のままに喋ることにしたらしい。お姫様みたいだと言われたのが気に入ったのか。
「なにか
「引っ越しちゃったのか」
「屋敷がそのままなら
「ええ、ひどいなあ」
「そんなものじゃ。それでそうなる前に、屋敷で仲良うしていた娘が、我を神社に託してくれたのじゃ。その娘も、その時には老女だったがの。家付き娘で
懐かしそうに微笑みながら童子は言う。
戦とはいつの何だろうとか、家付き娘とはどういうことかとか、健にはよくわからないこともあったが、童子がその頃も幸せだったことがわかって健は安心した。
「その娘はシシさんコマさんとも仲良しだったのじゃ。人の身でそんなのは、以来タケルしかおらぬな」
「そうなんだ。僕はまだ仲良しってほどじゃないけど、みんなのこと好きだよ。シシさんはいいお兄さんだし、コマさんはモフモフだし」
「二人とも姿を見せてくれているのだから、じゅうぶん仲良しじゃ。タケルが
「とこよ?」
健は首をひねった。童子は健の知らないことをたくさん知っていて面白い。
「今いるここは
「次元が違うとか、そういうこと? うっわSFっぽい」
「えすえふ、が我にはわからぬ」
今度は童子が首をひねった。健にも教えてあげられることがあって嬉しくなったが、そういえばSFってなんだろう。うまく説明できそうになくて困っていたらご神体の大岩に着いてしまった。
「ここよりは
童子が足を止め、健も
岩の手前には柵があり、
健の背丈を越える大きさのその岩はどっしりと静かで、周囲の空気は清冽だ。
こんな岩に成るまでの時と変成、この場所に至るまでの変遷を思えば、昔の人が神宿るものと考えたのもむべなるかな。
健には難しいことはわからないが、なんとなく神々しさを感じて手を合わせ
「そう。敬う心があれば、それでよいのじゃ」
この杜のある山を北にたどれば
「神様にも、いろいろあるんだ」
「当たり前じゃ。
ふーん、とうなずきながら健は、帰ったら調べてみなくちゃと考えていた。神話は神話だと思っていたのに、こんなに身近な話になるとは。
「で、ざーさんはどういう立場なの」
「我は神ではないぞ。
「けしょう」
「ふと、そこに現れるのじゃ。我はきっと人の想いから生まれたと思うておる」
童子は瞳をきらきらさせて空を見た。
「亡くした子を想い、幸せであってほしかった、あの子がいれば幸せだったのにと、たくさんの祈りをこめたのであろ。その祈りから生まれたのが我じゃ。だから我がいる家は幸せになるし、我は大切にされて幸せなのじゃ」
健も童子と同じく空を見た。まるでそこに、童子を生んだ、子を想う心が
「―――座敷わらしって、素敵だね」
「そうであろ」
童子は腕を後ろにツイと組んで、得意げに笑った。応えて健も笑う。
笑い合う二人のことを、すぐそばの藪の中から見つめる目があった。
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