第2話

婚約発表の当日、メーガンが着るドレスや宝石は全て、ティラー公爵から贈られたものだ。

伯爵家からは一銭も出してはいない。これも提示した条件の一つでもある。

だが、当のメーガンはそんな事など露知らずレナードからの贈り物だと思い、喜色満面の笑顔で着飾っていた。

あんなもの、伯爵家の趣味だと思われては困る。

とても趣味の悪いごてごてとした装飾品を纏って胸を張るメーガンを見て、レナードはこっそりと溜息を吐いた。

あれほど公爵家以外は人間ではないと騒いでいたのに、金の力を改めで思い知らされたレナードだった。



婚約発表の会場は王宮の大広間で催されることになっていた。

と言うのも、国王たっての願いと言う事と、王家を後ろ盾にし盛大にお披露目をしてしまえばそうそう破棄も出来ないだろうという、ティラー公爵家の思惑も絡んでいたのだ。

だがレナードはそんなことなど気にすることなく、緊張や萎縮するどころか、いつもと変わらない素振りで立っていた。

今日の参加者達は国王夫妻も参加する為、招待を受けた殆どの貴族が参加しており、その裏事情まで知っていた。

その所為か、年頃の娘達を伴って参加する家も多く、殆どの令嬢たちはうっとりとした眼差しでレナードを見ている。

婚約したばかりなのに、近い未来にくるであろう彼等の婚約破棄を思い描いて。

それらを示唆するかのように、壇上に立つ二人は見るからに温度差があった。

べたべたしようとするメーガンに対し、そこら辺の令嬢をエスコートをしているかの様な必要最低限の接触のレナード。

参加者の中では、婚約破棄がいつ頃になるのか賭けをする者まで現れるほど、主役二人の雰囲気はちぐはぐなものだったのだ。


忌々しい婚約の打診があった時は、伯爵家はさらさら相手にする気はなかった。

だが彼等が出してきた『王命』にペルソン伯爵の方がキレてしまったのだ。

息子より親の方が怒り心頭で、反対にレナードの方が冷静に状況を把握できた位だ。

そう、冷静に。

レナードは怒っていなかった訳ではない。怒っていた。ただ、自分が怒る前に父親が爆発してしまっただけで。

そして冷静になれた事で、どうやって結婚を回避し、伯爵家を馬鹿にした彼等に鉄槌を下すかを瞬時に画策する。

『この国を捨てる』と啖呵を切った父親の言葉が功を奏し、レナード有利な条件を出すことで婚約が成立した。

その条件は、いくら不良物件を押しつける負い目があるにしても、全て飲んでもいいのか?という内容が多かった。

何ら反対するわけでもなく全て了承したという事は、我々を見下し相手側に絶対の自信があるという表れなのだろう。

だが、メーガンという怪物は、王家や公爵家の考えを軽々と凌駕してしまうほど、欲望に忠実なたとえるなら野生動物そのもの。

きっと公爵側の思う通りに事は進まないだろうと、レナードは思っている。いや、それこそこちらが望む展開だ。

その為には婚約の条件のなかで、伯爵家だけが有利ではなく、そちらにも譲歩したように、た。

最終的にレナード側が得をすることになるのだが。




条件の中に、伯爵家に迎えてもいいと判断できる位に更生できたら結婚する、と言う項目がある。

具体的に期間は決めておらず、彼女の性格が更生されたら・・・と、曖昧にしておいた。

公爵家で作り上げたメーガンと言う怪物を、他人に丸投げしあわよくば結婚という最良の方法で家から追い出そうとしているのだから、押しつけられた方は堪ったものではない。

はっきり言って、このままではお前とは結婚できねーぞ!と、遠回しに伝えているのだが、相手方は更生に積極的で伯爵家にも手伝うよう求めてきた。

しかも、お金の面での援助を。どれだけ面の皮が厚いのか。

だがレナードは、これはチャンスだととらえた。

メーガンの金の使い方は、王家ですら真似できないほどで、よくもまぁ、公爵家が破産しなかったなと思うほど。・・・実状はかなりヤバイ所まできているらしいのだが。

やっと生まれた女児であるはずなのに、自分達の育て方を棚に上げ、手に負えなくなったからと赤の他人に丸投げしようとしている王家と公爵家に、彼等を潰す位の勢いの反撃をせねば腹の虫も治まらないというもの。

絶対に婚約解消できないよう、外堀から固めていこうとしているようだが、レナードはそんな彼等を鼻で嗤うのだった。

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