軟体妖の囲い方(1)
窓の外に広がる空を、白い雲がゆっくりと流れてゆく。
アレンは視線を窓から自分の机に向ける。雑多に積み重なった未処理の、申請書、請求書、契約書の類を見て大きな溜め息をつく。
どのような書類であれ、最終的には責任者である彼が確認する必要がある。とはいえ、ことが効率的に進んでいないのは事実だ。主任に選定された人物たちも初めての業務に戸惑い、とりあえずアレンに任せようと書類を回してくる。その為、書類の重要度も
いかんせん計画が発足してまだ一月と経っていない。こうなることはある程度は予測できたことである。嘆いても仕方ない。彼らが一刻も早く業務に慣れ無駄な業務が一つでも減ることを祈るばかりだ。
「さて、と」
つかの間の現実逃避を終えて、アレンは机に向かう。書類の精査に確認のサイン、今後の計画とやらなければならないことは山ほどある。幸いなことにここは職場にして居住場所でもある。いつでもすぐにでも仕事を行うことはできる。
――いや、それは幸いなことなのか?
羽ペンを持つ手を一旦止めてアレンはしばし考える。つい先月まで碌な仕事をしていなかったので感覚がおかしくなってるが、四六時中働き詰めというのは普通、おかしなことではないだろうか。実際のところ、この運営本部も定期的に休日を設けている。しかし、なまじっか職場に住んでいるものだから休日であってもできることをしようという思考に陥ってしまう。
思い返してみれば、ここに来てから丸一日を休暇に費やしたことは一度として無い。
「…………!」
アレンは思わず口元を抑える。やらなければならないと自分に言い聞かせて来たが、気づかないうちに無理をしているのではないだろうか。プロジェクトの停滞は避けなければならないが、自分が過労の末に倒れるようなことになったら元も子もないのである。
――今度の休みはしっかり休もう。
決意するようにそう胸の中で唱えて、再び作業に戻る。
その時部屋の扉が勢いよく開かれる。
「失礼します!」
サラが扉の影から顔を出す。思えばこの少女も、最初はどうなることかと心配だったが意外とよく働いてくれている。やや短絡的などころはあるが素直ですぐに身体が動く。それに文字の読み書きができるだけでも十分に使いようがあるというものだ。
「サラ。良いところに来た。ちょっと手伝ってくれないか? ここにある書類を管轄と重要度で振り分けてくれ。その上で重要度の低いものは、僕の名前を使っていいからサインを――」
「緊急事態です!」
アレンの言葉を遮ってサラが声を上げる。
「……え?」
「魔獣が一匹逃げ出しました!」
緊迫した様子である。アレンの額を一筋の汗がつたう。
「ま、まさか……」
「はい!
「またかぁ!」
絶叫とともにアレンは立ち上がる。
机の上にある書類の山を背にして部屋を飛び出した。
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