第2話

外では、雷が轟いている。大雨と稲妻。身体は怠いけど、地響きはワクワクする。ワクワクしながら、自分の身体を恨んで過ごす。

大雨の下を歩きたい。雨に打たれながら、雷様を待つのだ。もしかしたら、浴槽じゃない場所からも、水の向こうに行けるかもしれない。


風呂から上がって、メッセージに気がついた。ヒナコからのメッセージ。何年ぶりだろう。いつも、忘れた頃に来る。

私の中のヒナコは、高校生のままだ。長い、真っ直ぐな髪を、一つにまとめている。可愛い格好はしないのに、ペディキュアだけは好きで。でも、それをアピールすることはせず。赤い花の大群の中に、一輪だけ白い花が咲いているように。自分は特別だと思い込んでいる、普通の女子。私の思い込みと変わらない、普通の女子。



窓から、遠くの稲妻が見える。遠くの山の方だから、ここまで来ないかもしれない。白く大きい雲と稲妻が綺麗で、何枚もカメラで撮った。今度、空の写真だけをピックアップして、フォトカードでも作ろうか。

部活を引退したら、一日が長くなった。ヒナコは美術部だから、文化祭までゆるく活動が続く。美術部の二年生、カサイ君は、ヒナコを好きなのがバレバレだ。ヒナコも悪い気はしないみたいだけど、付き合う気はないと言っていた。可哀想に。触らせてくれない好きな女と、2人きりで過ごす教室は、カサイ君にとって生殺しだろうか、至福だろうか。後者なら讃えたいけど、彼氏にはしたいと思わないな、うん。


ヒナコやカサイ君の邪魔にならないよう、そっと美術室に入った。カサイ君だけがいて、ヒナコの姿は見えない。荷物はある。私に気づいたカサイ君が、視線で教えてくれた。美術教師の控室でもある準備室の、ドアが開けっぱなしになっている。センセイと話しているらしい。私は教室の端に座った。

カサイ君は籠を作っているみたいだった。絵を描く以外もやるのか。細い竹か何か、編み込んでいる途中らしい籠をバケツの水につけている。ああやって作るのか。カサイ君は、将来は何になるんだろう。静かな教室で、カサイ君が黙々と作業している音だけ聞こえて心地良い。そろそろ、雨が降るのだろう。雲の色が変わってきた。準備室から、ヒナコの声が聞こえてきた。内容はわからないけど、楽しそうな。


はぁ。

カサイ君の溜め息が聞こえた。籠をバケツからあげて、水が切れるのを待っている。籠を持ち上げる作業に対しての、溜め息に聞こえなくもない。でも、そうじゃない。

可哀想に。 

整った顔で、長いまつ毛を持つ手先が器用な男子。好きな先輩が、準備室に入っていくのを見なくてはならない。なかなか出てこない彼女を待ちながら、バケツの水に沈めた籠を見つめている。そろそろ、雨も降ってくるから。ヒナコ、早く出ておいで。

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