除霊の実際

そうざ

Exorcism of Reality

「アンタには悪霊が取り憑いておるっ、凄まじい怨念だっ、きっと呪い殺されるぞっ」

 そう言い捨てると、紋付袴姿の自称霊能者は逃げるようにスタジオを出て行ってしまった。スーツでびしっと決めた自称超常現象研究家は、まるで表情を変えずに黙って見送る。

 こうして『決着つけまショー・心霊編』の収録は、決裂の形で終了した。

 控え室に戻った霊能者がそそくさと帰り支度をしていると、さっきまで敵対していた研究家がいつの間にか背後に立っていた。霊能者が呆気に取られていると、研究家はいきなり土下座をした。

「番組の手前、全否定をしてしまいましたが、本当は霊魂の存在を信じているんです」

 研究家は、仏頂面のまま退出しようとする霊能者を引き留め、内ポケットから封筒を取り出した。

「些少ですが……」

 厚みのあるそれを掴まされた霊能者は、たちまち眉間の皺を消した。

「余程のお悩みのようですな」

「話せば長くなりますが――」

「いやいや、説明は無用。私くらいになると何もかも直感で判る」

 研究家を床に正座させた霊能者は、その背後に回って解読不能の呪文を唱え始めた。やがて気合一発、奇声と共に研究家の背中を叩いた。

「悪霊は無事に成仏した。この程度の謝礼で解決出来るとは、アンタは誠に運が良い」

 霊能者は、破顔したまま悠々と帰って行った。

 この一部始終を、部屋の隅に設置された隠しカメラが捉えていた。番組スタッフは、金銭を受け取った似非えせ霊能者の詐欺行為を生々しく激撮出来たと仕掛人である研究家を称えた。

 しかし、研究家は陰鬱な表情のまま途方に暮れている。

 本物の霊能者との対面を期待しているからこそ、研究家を名乗り、こんな役回りも引き受けたのに、またしても真っ赤な偽者だった。

 一体全体、誰がさせてくれるのか――。

 後日、隠しカメラの録画映像を編集しようとしたスタッフは愕然とした。そこには似非えせ霊能者の姿しか映っていなかったのである。

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除霊の実際 そうざ @so-za

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