唯一の友人
「お、もう起きたのか」
「おはようございます、ここは……?」
「ん? 新しい家だ。昨晩作った」
なんて事のないように告げる。
「はやくないですか!? 作るって言ってたの昨日ですよね?」
普通家を作るとなるとそれなりの時間を要するもので、しばらくは野宿だと考えていたセビアは驚愕のあまり目を見開く。
「
「そういうもの……何ですかね?」
「それより今日は学園のはずだろ? 早く準備して行け」
「あの……」
セビアはもじもじしながらギルの方を眺め、何か言いたそうに顔を少しだけ赤くしていた。
「どうした?」
「森の出口まで一緒に来てもらえませんか……?」
「襲うような奴は居ないと思うが……まあいいぞ、それじゃあさっさと準備していくか」
ギルはセビアの要望を承認してさっさと準備をするよう促す。彼女にとって森というのは魔物が
(誰かに学園へ送ってもらうのは夢だったのです!)
しかしセビアの思考は全く別のものだった。幼い頃に親を殺された彼女にとっては誰かに送り迎えをしてもらうというのは夢だったのらしい。
「何ずっとニヤニヤしてんだ?」
誰かと学園へ行けるというのが嬉しくてニヤニヤしているセビアのことが気になったギルは、歩きながら問いかける。
「何でもないですよ、ただ嬉しくて」
「そうか、よく分からないがまあいい。そろそろ出口だな、俺はもう戻るからここからは一人で行けよ」
「はい! ありがとうございました! それでその……帰りもお願いできますか……?」
「帰りも? まあいいぞ、終わる辺りでまた行くことにするよ」
「ありがとうございます! それじゃあいって来ますね!」
「おう、いってらっしゃい」
ギルの言葉にセビアは嬉しそうに笑って学園へと向かって行った。
◆
「よお、お前家燃えたらしいな」
登校早々ニッグがセビアに絡んでくる。
(また……また絡んでくる……何がしたいの? 何が目的?)
セビアの頭の中にはさまざまな疑問が浮かんでくるが、それらを全て心の中にしまい無視を決め込む。
(……ってあれ?)
しかし通り過ぎる瞬間、一つ違和感に気がついた。
「なんで知ってるの……?」
昨日の今日で知っている訳がない。親が騎士であるが故に情報共有されているかも知れないが火事になっただけでSクラス騎士の耳に届くことはあるのだろうか?セビアの頭には一つの考えが浮かんできた。
(もしかしてあれをけしかけたのは……)
実際無い話ではない。Sランク騎士を親に持つがためにある程度の権力があり、そして獣人を目の敵にしているこの男ならあり得る話だ。
「さぁ……何でだろうな?」
ニッグは怪しい笑みを浮かべセビアの問いを無視し、その場を去っていく。
「貴方が……貴方がやったの……!?」
去っていくニッグの肩を掴む。
「放せよ、ゴミが。家が燃えてちょうどよかったなぁ? 獣らしく野宿できるもんな? やった奴には感謝しとけよ? それとも何だ? あの男に体でも売って助けてもらうか?」
「……っ! ギルさんはそんなことしない……!」
「男なんてのは皆身体目当てなんだぜ? ま、お前みたいな小汚い貧相な身体のやつを襲うのはいねぇか。どうせすぐに捨てられるのがオチだな」
高らかに笑いニッグはセビアから離れていく。セビアはその場に立ち尽くし、ニッグを追いかけることはしなかった。否、追いかけられなかった。
あの男の妄言だと分かってはいる。しかし、彼女は恐れていた、大切なものをこれ以上失うことを。両親は処刑され、形見の家も燃えてしまい、その上ギルにまで見捨てられたらもう立ち直れる自信がなかった。なんなら一回出て行かれているため、そのビジョンが明確に見えている。
「……セビア? すごい顔してるけどどしたの?」
「え……? へデラちゃん……? 何でここに!?」
彼女はへデラ・サネカズラ。この学園でのセビア唯一の友人である。
「何でって……私もここの生徒なんですけど!?」
「ごめんごめん、怪我はもういいの?」
「もっちろん! この通り完治してるよ! いやー、それにしてもせっかく仲良くなったのにその翌日から怪我とかついてないよねー」
彼女は学園に入学し、一日目でセビアと仲良くなった。しかし一週間後に大怪我をして今まで入院していたのだ。
「それよりどしたの? なんかあった? 随分元気がないけど」
少し表情の暗いセビアに気がつき顔を覗き込みながら聞く。
「……大丈夫大丈夫! 僕のことは気にしなくていいよ!」
「何か隠してるでしょ? 私に隠し事はしない! ほら、全部吐いちゃえ!」
肩を掴まれ、正面から見つめられる。セビアはその真っ直ぐな瞳からつい目を逸らしてしまった。
「もしかしていじめられてる?」
「……そ、そんな訳ないじゃん!」
「分かった、あの七光りだね、よし殺そう」
へデラは腰にぶら下げている剣を鞘から抜き、教室へ向かおうとする。
「わーっ! ちょっと待って!! 逆にへデラが消されるよ!?」
「大丈夫大丈夫! 私の親はSクラスの騎士だから!」
新たな事実、身近にすごい人物がいたとセビアは一瞬固まってしまう。
「いやそれあんたが七光りじゃん!?」
しかしすぐに親の威光を使う七光りであることに気がついた。
「セビア本気で信じてんの? 嘘に決まってんじゃん!」
ゲラゲラ笑いながら背中をバシバシ叩いてくるへデラ。
「ほんっとにへデラは変わらないね」
「そうは言ってもまだ一週間ちょっとしか絡んでないけどね?」
「一週間もあればあんたのことなんて大体わかるのよ?」
一週間、そいつの人と形を知るには十分な時間なのだろう。少なくともセビアはへデラと一週間絡んで、心優しく砕けた雰囲気を持つ魅力的な人間に見えていた。
「よーし! それじゃ教室へレッツゴー!」
(ああ、このテンションにはついてけそうにないな……)
そんなことを思いながらも二人で手を繋いで教室まで向かって行った。
「ついてけないけど……ありがとね、すごい楽になったよ」
「んー? よくわからないけどセビアのためになったならそれでよし! あ、そうだ! お昼どこで食べる? 私的には教室は嫌なんだけど……」
「それなら森とかどうかな?」
「森!? 魔物に襲われるよ!?」
「大丈夫だよ、僕は襲われない。守り神がついてるんだ!」
「それならいっか! 森で食べよ!」
ちなみに彼女が言う守り神とは無論ギルのことである。神どころか悪魔であるが、そんなことは彼女にとってどうでもいいのだ。
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