森の支配者
「今は何を意識した?」
意識の変化を聞く。魔術の威力、形というものは意識によって変わるものだ。詠唱とは、あくまでその形の一つを作り出す術でしかないのだ。
「いえ……特に意識はしてなかったです」
伏し目がちに弱々しく告げるセビアに、ギルは一つのため息を吐く。
「いいか? 魔術ってのはただ闇雲にやってりゃ上達するわけじゃないんだ」
「そ、それなら教えてくださいよ!」
「まずは詠唱をやめろ。邪魔だし第一位階如きに必要なもんじゃない。それに相手に手がバレるだろ。後は魔術陣をよく見てみるんだな。俺から言えるのはここまでだ」
無詠唱、魔術が上達するための手段のうちで最も有効なものだ。有形魔術である詠唱魔術に比べ、無形魔術である無詠唱魔術は成長度合いが高い。想像力が鍛えられるためだ。
「魔術陣をよく見る……分かりました、やってみます!」
「それじゃあ俺は少し食事をしてくるよ。今のセビアならここら程度の魔物には負けない」
「えっ!? 僕のこと置いていくんですか!?」
「ああ。それじゃあがんばれ。しばらくは戻らないからな」
ギルは魔術訓練をしているセビアを置いて一人狩りに出かけていった。
◆
ギルは困惑した、目の前で起こっている謎の状況に。すぐさま思考に移るがなかなか結論が出てこない。
そして考え抜いた末に、ギルはついに一つの結論を出した。
(よし、戻るか)
それはセビアの元に戻って魔術を見ることだ。
『オ待チ下サイ』
声が聞こえた……というより響いた。目の前の魔物の群れだろうか。
「なんだ? 今まで散々お前らの仲間を殺してきたからその仇討ちか?」
この数を一気に殺るのは少し気が引けた、森のバランスが崩れるかもしれないからだ。しかし向こうがやるというのならこちらもやるしかない。覚悟を決め、
『グガッ! 仇討チナド滅相モナイ! 是非我ラヲ配下ニ』
「断る、じゃあな」
面倒くさそうなお願いを即座に断りセビアの修行しているところまで戻ろうとする。
『オ待チ下サイ……! 何故デスカ!』
無視して歩いていると後ろを大量の魔物たちが列を為して付いてくる。なかなかに壮観だ。ギルはスルーを決め込んだ。
「あ、ギルさんおかえりなさい! ……ってええ!? 後ろ後ろっ!」
特に撒くこともせずゆっくりと帰ってきた為、当然後ろには先程の魔物の群れがついて来ている。
「気にするな、こいつらに敵意はないらしい」
驚愕している彼女を安心させるように、ギルは優しく言葉を口にする。
「じゃあ何しに来たんですかこの魔物たちは!?」
それを聞いたセビアはもっと訳が分からなくなり、頭の上にはクエスチョンマークが何個か浮いているように見える。
「なんか配下になりたいらしい」
「それじゃあ配下にしたんですか?」
「断ったぞ」
「じゃあ結局何しに来てるんです!?」
「俺に聞くな。それより気にせず魔術の訓練を再開するんだな」
そういうとすぐに、セビアは魔物たちから視線を外し、魔術の訓練に戻っていった。
「さて……さっきは断ると言ったが……お前達を配下にすることによるメリットは何かあるか?」
『毎日一定数ノ
「採用だ、これからよろしく頼む」
狩りをせずとも一定の魔素をゲットできる、メリットしかないだろう。掌を返し、ギルは即決でOKした。
「決めるのはやくないですか!?」
「セビア、目の前に大量の金がチラついた時、お前ならどうする?」
「そりゃ貰いますけど……」
「そういうことだ」
「そういうこと……なんですかね?」
セビアは渋々ながらも納得したようだ。
「さて、お前達はオレの配下になったわけだが……何を求めてるんだ?」
『森ノ支配ヲ』
この言葉を聞いた瞬間、ギルの中に流れた感情はただ一つ、即決した自分への怒りのみだった。
「ギルさん……なんて言われたんです?」
ギルの表情を見たセビアは少し心配になりギルに問う。
「ん? ああ、少し森の支配をって言われただけだ」
「森の支配!? それって大丈夫なのですか……?」
「少し後悔してる……しかし一度決めたことを曲げるのは俺のプライドに反すのでな……」
「でもすぐにこちらへ戻ってきましたよね?」
「……お前結構痛いとこ突くのな、それは例外だ。まあ決めた以上はやることにするか。つっても支配って……何すればいいんだ?」
「君臨してればいいんじゃないですか?」
「うん、そうだな……そうしようか、めんどくさいしな。君臨すれども統治せずってところか。助かったよセビア」
「いえいえ! お役に立てたのなら何よりです!」
「まあそれはそれだ、魔術はしっかりやっとけよ」
修行が止まっているセビアに一度注意をしてから魔物たちの方を向く。
「聞け、魔物達よ! 我が名はギル! 今より貴様らの上に君臨してやる。しかし統治はしないつもりだ! 俺からの命令はただ一つ、自分自身で考え、自分自身で決定して、為すべき事を為せ!」
その言葉に魔物達は一斉に平伏し、忠誠を誓う。
「ところでギルさん、なんでこんなに慕われてるんです?」
「俺も知らん。なんか急に出てきただけだよ。というか魔術……はやってるな。よそ見しながら魔術とは随分と余裕じゃないか」
「あ、気づいちゃいました? 実は随分と余裕が出てきました! 魔術陣の展開速度はおよそ3秒まで減りましたし無詠唱も打てるようになりましたよ!」
「そうか、少し見てやる、放ってみろ」
ギルはもう無詠唱を習得したのか、と感心して、成長を確認することにした。セビアもそれに答え魔術を発動しようとする。
「はっ!」
やはり声は出したほうがやりやすいのだろう、小さな掛け声を出し、炎の玉……否、炎の矢を木に向けて放った。
「ほぉ……もうそこまで気がつくか」
「はい! 魔術は想像力って聞いたので試しにやってみたらできました! そこで気がついたんです、位階魔術は一つとは限らないって」
「合格だ。今日はもういいぞ」
「え? でもまだ魔術陣の展開はノルマを超えてませんよ?」
もう少しやりたかったセビアはギルに抗議する。
「なんだ、まだやりたいのか?」
「はい!」
「それなら好きにしろ」
「はい! もちろん見てくれますよね?」
「知らん。勝手にやってろ」
「酷いです! 家に住んでるんだから見てくれてもいいじゃないですか! それにどうせ暇ですよね?」
「はぁ……わかったよ、しばらく見てやる。後誰が暇人だ」
「やったのです!」
結局、また三時間ほどひたすら魔術を見せられて少し後悔したギルだった。
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