魔術の鍛錬を

「さて、この辺なら見られないか?」


ギル達はあまり人が来ないような森の奥地へ来ていた。魔術の訓練は魔物の姿で行うので少し用心が必要なのである。


「あの……ギルさん……こんなに奥まで来て大丈夫ですか……?」


初めて来る森の奥だから怖いのだろう。セビアは震えながらギルに引っ付く。


「この森には大した魔物はいねぇよ」


「いえ、そうじゃなくてギルさん迷子になったりしそうなので……」


どうやら怖いのは魔物ではなく遭難らしい。


「俺が迷子になるとでも思ってるのか?」


「僕の家に来たのって迷子になったからですよね?」


「……この森は家みたいなもんだ、迷子にはならん。ゴタゴタ言ってないでさっさと始めるぞ」


ギルは過去の自分を無性に殴りたくなった。もし過去に行けるのならば過去の自分に道案内をしていたに違いない。


「ところで今日は何を教えてくれるんです?」


「ん? そーだな……威力……は、ここでは試せないし展開速度……そうだな、術式の展開速度を見せてくれ」


既に一度見ているが、もしかすると上がっているかもしれない。方針決定の上でも大事だろうと考え、展開速度を見ることにした。少なくとも、今までのままではろくに戦えないだろう。


「術式……魔術陣のことですか?」


「ああ……そうだったな、その認識でいいぞ」


「普通に魔術使えばいいですか?」


「それでいい」


「わかりました。それじゃあ行きます!」


セビアは魔術陣の作成に取り掛かる。そしておよそ4秒ほどで魔術陣が完成した。


火球ファイヤー・ボール!」


セビアの手から炎が放たれる。目の前にある木の……横にいるギルに向かって。


「……なんで俺に?」


「え? この前は『ターゲットは俺でいい。遠慮せずに全力で放て』って言ってたじゃないですか。もしかして怒ってるんですか……?」


「いや、むしろ色々と都合がいいから助かったが……何か恨まれてるのかと心配になってな」


「恨むなんてそんな! 感謝こそすれど恨むなんて……そうですね、何もないですよ?」


ギルの言葉をセビアは否定した。しかし全く恨んでいないわけでもない、共有リンクなどという卑劣な魔術を用いて裸を見られたことは未だ忘れていない。


「それより私の魔術どうでした?」


「ああ、今回見たのは展開速度だが……はっきりいう、とてつもなく遅い」


意地悪で言っているのではなくて、本当にとてつもなく遅かった。


「ええ!? これでも結構自信あったんですけど……」


「術式の展開におよそ4秒、そして詠唱でおよそ0.5秒、このスコアをセビアはどう考える?」


「はい、速いと思います! ちなみに学園の第一位階魔術陣展開速度の平均は12秒ですよ?」


学園の平均値に驚愕する。12秒もかかっていると、まともに戦うこともできず、殺されてしまう。なれると動きながらでも、展開はできるのだが、少なくとも12秒もかかっているようでは慣れているとはいいがたいだろう。


「12秒……? それ実戦で使えるのか?」


「だから言ってるじゃないですか、第一位階魔術は実戦用とは教えられてないって」


「いやそういう話じゃない、第一位階でそれってことは第二位階クラス以降はさらにかかるって事だろ? まともに戦えるのかよ」


「そのための魔力なのです!」


ギルの言葉に、セビアはどや顔をしてない胸を張る。


「でもお前今まで使えなかったじゃん」


「ぐっ……だからこそ学園で魔術の発動速度は一位だったのです!」


「へぇ……合計5秒くらいかかって一位ね……よし、1秒以内に発動できるようにしろ」


「なっ……! 1秒ですか!? 無理ですよ!」


ギルの無茶振りにセビアはつい文句をいう。四倍以上とはとんでもない鬼畜だ。


「出来る出来ないじゃない、やるんだ」


「そういうギルさんは1秒以内に発動できるのですか!?」


「当然だろ、出来ないことは言わん」


「それじゃあ見せて欲しいのです!」


セビアに言われ、ギルは即座に魔術を放ってみせる。


「ほら、こんなところだ」


「え……あの、詠唱って要らないんですか……?」


碌に詠唱もせずに即座に魔術を発動させたギルにセビアは驚いた。


「詠唱? そうだな、無詠唱だと、素早い発動が可能になる。ただ威力の減少がとんでもないのがネックだな。大体3割程度になる」


「威力も十分じゃないですか?」


「そこは地力の差だ。とにかく、まず一つ目の課題は発動速度だな」


セビアはギルの言葉に少し苦い顔をする。セビアにとって1秒未満で魔術を発動させるというのは相当難関だった。


「一つ……アドバイスをしてやろう、魔術陣を作ることにこだわりすぎるな、魔術で一番大切なのは想像力だ」


「……どういうことですか?」


「そのままだ」


「そのままって……まあいいです、やってみます。火球ファイヤーボール!」


再び魔術を放つ。しかし発動速度はほぼ変わらずに4秒と少しだった。セビアは、ギルの言うことに要領を得なかったらしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る