人と亜人と
「はへぇー……」
街に出ておよそ一刻が経った頃、セビアはこの前の空き地で完全に伸びきっていた。
「なあ、街を歩きに来たんだよな?」
伸び切っているセビアの横に座り、瞑想をしているギルは目を開け、隣のセビアに問う。
「そうですよ?」
「この状況はなんだ?」
「僕……気がついちゃったんですよ……街なんか歩くよりも落ち着ける場所で伸びてる方が楽しいっていう事に……それにやっぱりぼっちには街を案内するなんて高等技術とても不可能なのです!」
とても元気な声で、とても悲しいことを言い切るセビアにギルは少なからず困惑した。
「……それは別に構わないが……いつもこんなに伸び切ってるのか?」
「いえ、いつもは警戒しながらですよ、じゃなきゃ獣人の僕はすぐに誘拐されて奴隷行きです」
「成程、腐ってるな。ゴミだ、ここの人間どもは」
ギルは人間の現状に嘆き吐き捨てるように言う。かつての、ギルが知っている人間とはあまりにかけ離れていたのだ。少なくともかつての人間は、奴隷などと言うものは作らずに、人も亜人も関係なく魔族に立ち向かったのだ。
「はい、本当に腐ってます」
二人で話していると空き地に複数人の大人が現れた。その誰もが、柄の悪い不良のような見た目である。
「兄貴! 獣人発見しやした!」
噂をすればなんとやら、だ。おそらくセビアを捕まえて奴隷商か何かに売るつもりなのだろう。それか奴隷商人その人かだ。
「大勢集まって俺たちに何の用だ?」
獣人を見つけた、というか言葉から既に目的はわかっているが一応聞いておくのが礼儀である。ちなみに彼は既に、目の前の男たちに少なからず怒りを覚えていた。先の話を聞いたこともあり、この男たちがやってきたであろうことを想像したのだ。
「なに、俺たちが欲しいのはお前の後ろのやつだよ、そいつを引き渡せば悪いようにはしねぇぜ?そいつを渡さずに俺たちと戦うかそいつを渡してここから逃げるか……選択肢は二つに一つ、さあ、さっさと渡せ」
反吐が出る、セビアに下衆な視線を浴びせる目の前の男たちに強く憤ったが、己を鎮めて溢れそうになっていた
「よし、セビア。さっき言った
ギルは手を男達の方へと向ける。
「やる気か!?」
「まずはシンプルに……
ギルの放った
「こんな感じで貫けるほどに
最も、相手が格上だとしても技術面で勝っている場合は勝ち目もある。
「なっ……!? お前よくも……!」
仲間の一人を殺された事により、男達は我を忘れて一斉にかかって来た。しかし連携も取れていない複数人での攻撃など脅威でもなんでもない。
「よし、丁度いいな。次の使い道だ。一回しか見せないからよく見とけよ」
男達がギルに斬りかかる寸前、ギルは上に飛び男達の攻撃を回避する。そしてそのまま網目状の
「これは
一通り説明した後、セビアに問いかける。教えるという事で一番大事なのは考えさせる事だ。
「……より強い
「おお、正解だ。よく分かったな」
「なんだか初めて見た気がしないんです……ずっと昔に見たことがあるような……」
セビアは神妙な面持ちでギルに伝えた。
「なんだ、学園で教えられでもしたのか?」
「いえ、学園では習った記憶は一切ないです。それよりももっと前に見た記憶が……」
デジャヴというものだろう。魂はループするモノだ、と考えられている理由の一つである。かつての……前世の自分の記憶が深層意識に根付くことで起こると言われている。
「まあなんでもいい、確かに強い
「なるほどです! ……ところでそいつらどうするんですか?」
セビアが指さした先には
「ああ、後処理がまだだったな。この技最大の特徴は後処理の手軽さだ。さっきも言った通りこれはよく切れる。つまり
これこそギルが
「おお! すごい便利です! 後でやり方も教えて下さい!」
「ああ、家に戻ったら詳しい操作を教えるよ」
「ありがとうございますっ! ……あの、早く処理してもらってもいいですか? 見てるだけで見苦しいので」
とてつもなく冷徹なセビアの言葉に男達はさらに震えた。彼の構想では、この立場にいるのは本来目の前の二人だっただろう。
「ひっ……た、助けてくれ! 頼む! 金なら幾らでもある……!」
そして兄貴と呼ばれていた人物が命乞いをし、部下達もそれに続く。
「やっぱり人攫いなんてやるやつは馬鹿しかいないんだな、お前らは今まで他者の命乞いに耳を貸したことがあるか?」
ギルは男達を冷笑しながら無慈悲にも言い放つ。
「た、頼むお嬢ちゃん……!」
ギルは無理だ、と諦めたのかセビアをターゲットにする男達。
「あはは、随分と面白いことを言うんですね、さっき捕まえて売り飛ばそうとしてた人に助けを求めるなんて……今まで亜人にしてきたことを考えればむしろ温い死に方だと思いますよ?」
まるで生ゴミでも見るかのような視線を男たちに向ける。彼女が男たちを見据える視線は、ギルのそれより冷たいものだった。同じ獣人が奴隷として扱われている原因の一端なのだ。思うところがあるのだろう。
「お、俺たちはまだ亜人に手を出したことはねえ! なあ、頼むよ!」
苦し紛れの嘘か、もしかしたら本当かもしれない。ただ、二人にとってはそんなことどうでもいい。
「ならよかったですよ、犠牲者はあなたたちだけですみそうですから」
おそらくこの中で一番残虐なのは拐おうとした少女だろう。故に、男たちは命乞いの対象を変えることにした。無駄だと言うのにもかかわらず。
「た、頼む……助けてくれ……! こいつらはいいから俺だけでも!」
セビアの冷たい視線を見た男は、まだギルの方が希望があるだろう、と彼に命乞いをする。しかしそれも無駄なこと。
「死ねよ、見苦しいな。最後くらい潔く死にやがれ……忘れてた。
すると抵抗力が圧倒的に足りなかった彼らの体は細切れとなり地に落ちた。彼もまた、人さらいに対しては特に冷徹だったのだ。魔物となり、さらに冷徹さが増した彼が助けるはずもないだろう。
「さて、燃やしてから帰るか。……それにしても、正直殺すのを止められるかと思ったが。後、あれは使いたいか?」
「はい! 戻って教えてください! それと、あんな奴らどうなろうと知ったことじゃありませんよ。僕ら獣人への扱いを考えたら当然です! 女の子の獣人はこれでもかというくらい汚されてから売られるって聞きましたよ?」
実際彼女の判断は正しかったのだ。もし仮に、あそこで殺すのを躊躇い逃げられていたら、これから被害に遭う獣人は3桁を超えていただろう。
「まあそれもそうだな、それじゃあ戻るぞ」
最後に燃やしてからギルはセビアと共に現場を後にした。
尚、翌日に空き地で燃えたバラバラ死体が発見された事によりまた少し騒ぎが起きる事になった。
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