別れと再会
「答えは決まったか?」
次の夜、ギルは約束通りに、セビアの答えを聞きに彼女の家へと行った。最も、彼女がどう答えようとも、彼がとる行動は決まっているが。
「はい……! 私も一緒に行きたいです!」
意を決し、ギルに告げるセビア。もともと虐げられていて、親族もいないために、この決断に至るまで大した時間を要することはなかった。
「そうか……諦めろ」
しかし、ギルもまた決めていた。彼女がどんな答えを出しても、連れて行くことはしないと。もし留まるのならそれでよし、ついてこようとするのならおいていくつもりだった。セビアには危険な目にあってほしくない、虐げられていようがなんだろうが命の危機がない場所で過ごして欲しい、というのが彼の願いだ。故にこそ心を鬼にした。
「あ……」
セビアの答えを聞いたギルは彼女のうなじを強めに叩き気絶させる。その動きはとても滑らかで迷いのないものだった。
「手荒なことになって悪かったな。お前は連れていけない。じゃあな」
一つだけ書き置きを残して、ギルはセビアの元を去っていった。
翌朝、セビアが目を覚ますと、枕元に一枚の紙が置いてあることに気がついた。
「ギルさん……」
そこにはトレーニング方法や応用のやり方がみっちりと書いてあった。
◆
(勢いで飛び出したはいいもののどこに行けばいいか……)
セビアに別れを告げ、およそ10日が経った頃、ギルは早速困っていた。今まで、森から碌に出たこともないのでどこにいけばいいのか全く分からないのである。
(まあゆっくり探すとするか。 冒険もまた一興……か)
「グガッ! ギャッ……!?」
道中、襲いかかってくる魔物たちは全て
「……戻るか」
ギルは一旦情報収集の為に森へ、やはり情報が少なすぎる。
(よく考えたらあんな風に別れといて戻るのってクソダサいな……まあいいか。そんなこと気にしてる場合じゃない。というか会わなければ問題はない)
ギルは来た道を引き返し森へと戻って行く。やはり慣れたこの場所が一番いいのだ。しかし一つだけ誤算があった。何故かセビアが森にいたのだ。
「……ギルさん? なんで……」
ギルの姿を目に入れたセビアは、その瞳を大きく見開き、驚愕をあらわにする。
「……なぜここにいる?」
「こっちのセリフですよ!? 森は出て行くって……」
たしかに出て行くと言った人物がいたらそれは驚くだろう。
「……気が変わったんだ、よく考えたらそこまで警戒することもない」
ギルがそういうと、セビアはゆっくりと彼に近づいて、そして力無く抱きしめた。
「……どこにも行かないで……ここにいて下さい……」
消え入りそうな懇願、それを受けて正直ギルは困惑した。一週間も経てばまた一人でいつも通りに生活するだろうと考えていたためだ。セビアの表情は酷く寂しそうだった。
「……しばらくはどこにも行かない、情報を集めないといけないからな」
「情報を集めたら……どうするんですか?」
「俺は魔物だ、一箇所に留まるつもりはない。だが……もし来たいのなら今度は連れて行ってやる。ただし……来るのならそれ相応の覚悟は必要になるぞ?」
「ほんとですか!? 今度はちゃんと連れて行ってもらいますよ!?」
即答だ、彼女にはこの街や学園に対する未練はカケラもないらしい。
「お前次第だ、弱すぎる奴を連れて行くわけには行かないからな。来たければ強くなることだ」
「はい!」
「それじゃあ今日はもう戻れ、森にいることがバレたらまずいんじゃないのか?」
それに対してセビアは笑みを浮かべて否定の意を表す。どうやら既に立ち入り禁止は解除されたようだ。
「ところで……ギルさんはまた森に住むんですか?」
「ああ、そのつもりだが……」
ギルがそう告げると、セビアは意を決した表情になる。
「それなら僕の家に住みませんか!?」
そして告げた。
「……プロポーズか?」
「なっ!? 違いますよ!? い、一緒に住んでた方が……そ、その……色々と教えやすいじゃないですか……どうですか……?」
セビアの提案は結構魅力的なものだ。元人間だった彼にとって、寝床というものはあればありがたい。そして何よりも……美味い飯が食えるという点が一番大きい。
「そうだな……それじゃしばらく厄介になろう」
「はい! こちらこそよろしくお願いします! ところで早速ご飯にしませんか? 僕もまだなんです!」
なんと朗報か、早速飯にありつけるというではないか。ギルは即座に頷きセビアの家へと向かっていった。
◆
「どうぞ! あんまり美味しくないかも知れませんが文句は言わないで下さいね?」
セビアの言葉にギルは黙って頷く。そもそも、作ってもらった分際で不味いなどというのははっきり言ってクソだろう。自分がそんな奴になる気は、彼には毛頭なかった。何かあるたびに殺すだのなんだのと脅す彼が既にクソかどうかは言及しない方がいいかもしれない。
「……うん、美味いな。そういえば金とかはどうしてるんだ?」
「あの学園って実は通ってるとお金貰えるんですよ。それで暮らしてます、一人か二人くらいなら養えますよ!」
曰く、未来ある騎士たちのために、と国が支援をしているらしい。だからか、いい家の者だけではなく、当然孤児などもいる。強くさえ有れば何も問題はないのだ。ただ、獣人だけは基本受け付けられていないらしいが。彼女が通えているのは……何故かは知らん。
「なんかすまないな」
「いえ、魔術教えてくれるのでそのお礼です! どんどん食べて下さい!」
「それなら遠慮はしないぞ? おかわりをくれ」
セビアの言葉にギルは次々とおかわりを頼む。遠慮を無くした魔物は恐ろしいのだ。
「……すごい食べるんですね……」
「ん? ああ、魔物だからな。美味かったぞ、ごちそうさま」
最後にまともな飯を食ったのはかなり前だったから仕方がない、それに遠慮するなと言ったのはセビアだ、と彼は自分自身を正当化し、さらに食べ続ける。
「なんかすごく疲れました……」
「悪かったな、明日は俺が作るか?」
「ギルさん料理出来るんですか!?」
「ある程度はな」
勇者としてサバイバルなどが多かった上に、仲間のアルケミラは料理があまりにもへ……上手じゃなかったので覚えるしかなかったのだ。
「魔物なのに喋れて魔術使えて料理もできる……なんなんですか? 僕はあまり料理が得意じゃないので羨ましいです……」
どうやら彼女は自称料理ができない女らしい。料理は美味かったが……とギルは何故か自分の味覚を疑い出した。
「さあ、なんなんだろうな。ああ、片付けはやっとくよ。お前はゆっくり休んどけ」
「ありがとうございます……」
ギルの好意に甘え、素直に休む事にするセビア。二人分の布団を引いてさっと横になる。
セビアが眠りについたことを確認し、ギルも隣に敷かれた布団へ潜り込む。
(布団で寝るなんて久しぶりだな……セビアには感謝するか)
久々の布団に感動しながらも、セビアへの感謝の念を持ちゆっくりと眠りに落ちて行った。
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