魔素の利用

「爆発……? すみません、ちょっと何言ってるか分からないです」


爆発は爆発だ、それ以上でも以下でもないためどう言い換えればいいのかギルには分からなかった。


「なんで分からないんだ、ただ爆発させるだけだろ?」


「それが分からないんですよ!」


「それじゃあそうだな……魔素マナの塊を大きくすることはできるか?」


咄嗟に思いついた言い換えだ。


「それならできますけど……」


セビアもこれは分かったのか、言われた通りに実践して、先ほどよりも大きな魔素マナの塊を作り出す。


「よし、できたな。それじゃあ次はそれを八つくらいに分けて外側に飛ばせ。結構精密な操作だし難しいか?」


爆発とは言わば圧力の解放だ。小さな魔素マナの塊にかかる強い圧力を弱め、一気に解放することでこの現象は起こり得る。


「ぐぐぐ……っ!ダメです……できません」


セビアの手のひらの上には膨張した魔素マナが残っていた。どうやらイメージが湧かず、苦戦しているらしい。


「そうか、それじゃあ要訓練だな。ちなみにこの技は人間……というか動物には使えないぞ?」


「ええ!? それじゃあ意味ないじゃないですか!」


人間に使えないと知り、セビアは露骨にガッカリとした態度になる。人間に使うとなかなかえげつないことになるはずなんだが……と、ギルは残念がるセビアを見て少しだけ引いた。付き合い方を考えるべきか……


「意味はある、障害物を壊したりとかはできる」


「ええ……なんで人間には使えないんですか?」


「生物ってのはある程度魔素マナに対する抵抗力ってのを持っててな、もちろん植物も持ってるが動物や魔物ってのはそれが強いんだよ。そのせいで内側に魔素マナを留められない。衝撃を与える程度はできるがある程度のところで弾かれるというのが関の山だ。試しに……ほら。セビアに流し込もうとしても弾かれるだろ?」


実演のため、セビアに少なめに魔力を流そうとする。しかし、魔素マナはセビアから弾かれ、すぐに霧散してしまう。


「それじゃあ魔術以外の魔素マナ使用方法って……なんですか?」


「例えば……体に纏うとかだ」


最もスタンダードだった利用方法は己の強化だ。他者へと影響を与えることより、何倍も、何十倍も楽なのだ。それに楽な分極めやすいため、すぐにレベルが上がるのである。


魔素マナを体に?」


「ああ、試しに俺を殴ってみろ」


体に魔素マナを纏い、セビアに殴るよう言う。


「後で怒って僕のこと殺そうとしたりしないで下さいね……?」


「やらねぇよ、俺をなんだと思ってんだお前は」


「すぐに殺すって脅しをかけてくる悪魔デーモンです!」


「否定はできないな。まあとにかくだ。今は俺から言ったんだから怒らん。やってみろ」


「それじゃあ……えいっ! ……あれ?」


あまりに弱い打撃、おそらく魔素マナ関係なしにダメージはない。というか学園の生徒一人倒せないだろう。


「……なぁ」


「はひっ!」


「お前……いくらなんでも力無さすぎじゃないか? こんなの魔素マナ纏っていようがいまいが変わらないんだが……」


「す、すみません……」


力があまりにもないことを指摘され、セビアは少しだけ恥ずかしげに、顔を下に向けた。


「まあいい、とりあえず防御力が上がる、後は攻撃力が上がるってとこだ。魔素マナを一点に集めて攻撃すりゃ貧弱なお前でもかなりの効果を得られるはずだ。さて……肝心の訓練内容だが、ひたすら魔素マナを放出し続けろ。寝る時以外だ」


ギルから告げられた訓練内容にセビアは驚愕の表情を浮かべる。


「なんだ、なんか言いたいことあるのか?」


「それって……僕死んじゃいません!?」


何度もいうようだが、魔素マナの枯渇は一歩間違えると死に繋がる危険なモノだ。


「安心しろ、多分死なない筈だ」


ギルには確信があった。セビアは魔素マナの枯渇では確実に死なないという確信が。


「多分ってなんですか!?」


「なんだ、知らないのか? おそらく、たいていって意味だぞ?」


「そういうことじゃないです!」


「安心しろ、俺が死なないって言ったら死なない。それにお前の魔力に関してでもある……やらないことにはお前の魔力は解明できん」


「魔力……私やります!」


「よし、それじゃあ今からやるぞ。やり方は俺の真似をしろ」


ギルは全身からの魔素マナを放出する。


「こんな感じですか?」


それに対抗し、セビアも微量だが魔素マナの放出を始めた。


「よし、いい感じだな。それをずっとキープしろ。そして魔素マナの活用方法は自分で考えることだな。家までは送ってやる」


「自分でなんて……」


「いいからやれ。分かったな?」


「……はい」


セビアとギルは二人で肩を並べて、セビアの住んでいる家へと向かっていった。


「ああ、そうだ。もう森には来るなよ、住む場所を変えることにするからもうあそこにはいない。次どこに行くかもわからないからな」


「え……? 嫌です! ギルさんが居なくなったら僕はまた一人に……」


「もともと一人だったんだ、一人になるのくらいなんてことないだろ?」


「ずっと一人ならいいです……でもギルさんは僕に人といる楽しさを教えました! そこからまた一人になると……というかずっと一人だったわけじゃありませんよ!?」


ギルが初めて知る驚愕の事実だ。共有リンクを持ってしても見つけられなかった友達という存在が彼女にいたことは、ギルを心底驚かせた。


「なんだ、友達でもいたのか? それならいいだろ。それに俺は人じゃない、魔物だ」


「人かどうかなんてのはどうでもいいんです、一緒にいる楽しさを教えておいて急に居なくなるなんて辞めてください……!」


「俺に会うなって言ってんのは何もそれだけが理由じゃないんだ、もし俺とセビアが会って、しかも話しているところを誰かに見られたらお前……殺されるぞ? 魔女として。宗教を否定するだけで魔女呼ばわりだ。分かるな?」


「でも……! それでも私は……!」


ギルの説明を受け、死のリスクすらあると聞いてもセビアは尚反抗しようとする。


「明日の夜、もう一度お前の家に来る。俺と一緒にくるのかここに残るのか考えておけ」


「……わかりました」


明日もう一度くる、そう約束した後ギルはセビアの家を後にした。

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