魔力の正体

「よし、今日はまず初めに魔術を放ってもらう。全力で、セビアが使える最大の魔術だ」


森に入って早々、ギルはセビアに告げる。

 この修行には狙いが二つある。一つはセビアの最大魔素マナ容量上昇、そしてもう一つは、ギルの魔素マナ補給だ。


「最大火力ですか……? こんなところで?」


「ああ、そうだな……ターゲットは俺でいい。遠慮せずに全力で放て」


ターゲットを自分にさせることで、魔素マナの補給を図る寸法だ。我ながらすごくいい方法だと思った。最も、魔術に使用された魔素マナを奪えるのかは知らないが。


「でも……」


「そんなに心配するな、俺は死なない」


「はい……それじゃあ撃ちますよ? 全てを焼き払う黒き炎よ、我が敵を焼き払え! 獄炎ヘルフレイム!」


黒い炎がギルはと向かい、彼を焼き尽くさんと襲いかかる。


徴収レヴィ……ふむ、魔術に使われた魔素マナも奪えるのか。結構使えるな」


ギルはセビアの全力で放った魔術を吸収して、難なくかき消す。


「炎の第四位階魔術か。込められた魔素マナも申し分ないな。たしかに全力だったのだろう。さて、どうだ? 体に異変はあるか?」


魔素マナ容量ギリギリの魔術を放てば、少なくとも倦怠感程度は感じるはずだ。というか感じなければ人間をやめていると言ってもいい。


「体に異変……ですか? 特にはないです」


どうやら人間じゃない方らしい。魔素マナ容量を探って見ても、まるで減っている気がしない。彼女が放てる最大威力の魔術を使用してもなお、魔素マナがまるで変化していないのだ。


「いつもより体が重いとかそんなのでもいいぞ、何かないか?」


「全く……ものすごく元気です」


「ふむ……それじゃあ次は氷の魔術だ。どこまで使える?」


瞬間的な消費では測りきれないものがある。そこでギルは、持続性のある魔術で測ることにした。この結果次第で正体がなんとなく分かるかもしれない。


「一応第三位階までなら……」


「よし、それじゃあ使ってみろ。ただし1時間ほど持続するんだ」


「一時間ですか!? 無理ですよ! 死んじゃいます!」


いきなり課された無理難題に、セビアは思わず叫ぶ。持続性の高い氷魔術の持続は学園の教師でも第一位階魔術で30分程度だ。ただの一生徒であるセビアに1時間も、それも第三位階魔術を持続など出来るはずがない。無理に続けると、魔素マナ枯渇で死んでしまう恐れすらあるのだ。


「黙れ、出来る出来ないじゃない。やるんだよ。それとも今、先に死ぬか?」


「や、やります……凍ざせ! 氷獄ひょうごく!」


セビアが魔術を放つとギルの周りおよそ1メートルに巨大な氷筍ひょうじゅんがいくつも出来上がる。


「よし、それじゃあ一時間キープだ。それが出来るまで次へは進まないぞ」


みる限りは、持続している間も魔素マナの量に変化は感じられない。というか全く減っていない。心なしか、周りの魔素マナが少し減っているようにすら見えるのは気のせいだろうか?


「これキープって……何の意味があるんですか……?」


「何、ちょっとした実験だ。お前は気にせずやればいい。それに魔術を使い続けると魔素容量マナようりょうが上がるんだ。お前も上がるかもしれないぞ。それとも何だ? やっぱり今ここで死ぬか?」


質問は受け付けない、とでも言うかのような強い態度で持って接されることで、セビアは質問をする意志すら無くなってしまった。まあ殺すと言われてなお、聞くやつなどいないだろう。


「いえ、やります……やっぱギルさんは酷いです……」


しょぼんとした声で言って、セビアは大人しく従うことにした。


「セビア、俺が今から何をしてもお前は魔術を維持することだけを考えろ。そして俺のやることに口を出すな。徴収レヴィ


何を思ったのかギルはセビアが放った魔術に手を置いて、徴収レヴィを発動し、魔素マナを吸い取る。


「ちょっ!? 何してるんですか!?」


「気にするな。これも実験の一環だ」


「まあいいですけど……」


ギルの指示通り魔術の発動を継続する。ギルが吸い続けセビアが維持する。

 この謎の修行を始めてからもうじき一時間が経過しようとしていた。


「よし、いいだろう。さてセビア、体に異常は? 気怠さとかないか?」


魔素マナを吸い取った上で聞く。これでなんら変化がないようならばここで確定となる。ただ、みる限りは特に変化がない。セビアの魔力概要はこれで確定だろう。


「いえ……特にはないです。随分と僕のこと気遣ってくれるんですね」


気遣われている事を感じられるのか、セビアは少し嬉しそうに微笑む。心なしか魔素マナも少しだけ穏やかなものになった。


「いや、お前がどうなろうが俺はどうでもいい」


「酷い!? でもそれなら何でそんなに聞いてくるんですか?」


「今までも何となく感じてたが今回で確信に至った。セビア、多分魔力あるぞ。魔素が無尽蔵なのかそれとも魔素の超速回復か……具体的には分からないがお前には確かに魔力が存在している」


最初にギルが違和感を感じたのは第一位階魔術を使わせた時だ。

およそ六十発放ったとセビアは言っていた。そして周りに倒れていた木の数を見るにそれは真実だったのだろう。ただ六十発放っただけならさして驚かない。その後もセビアはぴんぴんしており魔力が減っている様子もまるでなかったのが問題なのだ。


「僕に魔力……本当ですか!? やった……!」


今まで魔力がないと思われていたところに、魔力があると告げられたのだ。セビアは全身で喜びを表していた。


「ああ、確実に存在してるぞ。ただ鍛え方は知らん。そこまでの面倒は見切れないからな。まあ何であろうと魔術の鍛錬は必須だ。そこは怠るなよ」


「はい……! ありがとうございます!」


「今日はもう帰れ、もう酉刻18:00を回ってるからな。……まずいな、ちょっとこっちにこい」


何かに気がついたギルは急いで森の奥へと逃げる。


「ここにもいないか……あの強大な魔素マナ……何だったんだ?」


先程までギルがいたところに姿を表したのはセビアの担任、リーフだ。


「セビア、予定変更だ。あまり長々と教えられるような状態でもないらしい。魔素マナ感知されてる可能性が高いな、とりあえずこれからやるべきことだけ伝えておく。一日中魔素マナを解放しておけ。それで容量を増やす。あとは魔素マナの使い方だ。そうだな……明日の夜、お前の家にいく。そこで少しだけ教えてやろう」


強大な魔素マナを感知したであろうリーフがこちらまで来たことにより、急いで隠れた。

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