復讐

「セビア……親はどうしたんだ?」


家路に着いた頃には既に23:00を過ぎていた。しかし家には人の気配がないことを気にして、ギルはつい尋ねてしまう。


「あはは……それ聞いちゃうんですね……僕の親はもう居ませんよ。僕が3歳の頃、異端者扱いされて幽閉、そして拷問の末処刑されました。まだ小さいから、そんな理由で僕だけ生かされたんです。この家はパパとママの遺産です」


セビアから聞いたのは、これまた重い話であった。親が死んでいる、それも謂れのない罪で処刑されたとなるときついものがある。ギルも同じく謂れのない罪で処刑された身だあるため、セビアの気持ちは良くわかるものだ。人によっては復讐も考えるだろう。ギルも考えたが、彼は今のところ復讐をする気はなかった。彼は基本的に末代まで呪ってやる、ということはしないのだ。当人の罪はそこにとどまり、後世へと引き継がれることはない、という考えであるため、当人が生きていない限りは復讐などは行わない。ギルを殺した者など皆死んでいるだろう。国王もおそらくは同姓同名というだけだ。つまり現時点でギルの復讐相手はいないのだ。

 その点彼女の親が殺されたのは最近であり、まだ相手も生きているはずだ。恐らく復讐も考えているだろう。


「それは……悪いことを聞いたな。俺はもう帰ることにする」


無理に嫌なことを語らせてしまった罪悪感からか、ギルはその場を去ろうとする。


「待ってください。ギルさん、一つだけ教えて欲しいです……僕は親を殺された後、ある人からこう言われました。『復讐は何も生まない、傷ついた分だけ強くなりな』って。僕は復讐を諦めた方がいいんですか……?」


辛そうな、助けを求めるような目でギルを見つめるセビア。おそらく求めているのは復讐の肯定だろう。


「復讐は何も生み出さない、それは紛れもない事実だ」


復讐は何も生まない、それは紛れもない事実だ。そもそも何かを生み出そうとしてやっているわけではないのだから。


「貴方も同じことを言うんですね……」


「最後まで聞け、復讐するなとは一言も言っていない」


ギルの言葉にセビアは驚いて顔を見上げる。その瞳には少しばかりの期待が入り混じっていた。


「復讐は何も生まない……そもそも何かを生み出そうとしてやるわけじゃないだろ? 心が晴れればそれだけでいい。ただ一つだけ……復讐するなら徹底的に、完膚なきまでにやり尽くせ。相手に復讐する気なんてのが起こらなくなるくらいにな」


そう、復讐なんてのは所詮憂さ晴らしでしかないのだ。満足できるならばそれでいい。


「はは……いかにも魔物らしい考え」

「こう言う考え方は嫌いか?」

「いえ……大好きですよ!」


セビアはその顔に一輪の花を咲かせるかのように微笑んだ。


「くはは……いい笑顔だな、復讐をする決心はついたのか?」


恐らく彼女は誰かに肯定してほしかったのだろう。自分の行いを、復讐という目標を。誰でもいいから認めてほしかったのだろう。そして認められた彼女の笑顔は美しくも、どこか棘があるものだった。


「ギルさん……また明日からもよろしくお願いします!」


「ああ」


ギルはセビアの家を後にして森に戻っていった。



「リーフ先生! プレゼントです!」


ギルと話し、復讐を決意した翌日。セビアは何故かリーフに一輪の花をプレゼントしていた。


「これは……花? すごく綺麗な花だな」


「ほんとに純白で綺麗な花ですよね。スノードロップっていうらしいですよ。普段お世話になってるので僕からのプレゼントです!」


リーフはいつも通りの時間を過ごしていた。いつも通りにみんなが登校し、いつも通りに授業をする。そしていつも通りにみんなの前で話していつも通りに解散する、そんなサイクルの中、今日リーフにとってとても嬉しい変化が起きた。今までは自分から話しかけていかないと話せなかったセビアがプレゼントをくれたのだ。


「ありがとう……! 私大切にするな!」


「はい! それじゃあさようなら!」


「ああ、また明日な!」


笑顔のセビアを見てもっと頑張ろう! と決意したリーフは先ほどもらった花を花瓶に入れて、丁寧に飾る。すると、途端に成長し、きれいに、誇らしく咲き誇った。それを見たリーフは満足げな表情をして、職員室を出て行った。

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