魔力とデジャブと

(さて……そろそろ戻るか)


今日もいつも通りに、出会う度に魔物を殺し、その力を奪う。そしてセビアの元へ戻った矢先、目に入った光景に驚愕した。


「……これ、全部お前が?」


辺り一帯のき樹木がきれいに消えている様を見て、心底困惑しながらも、何とかセビアに聞く。


「あ! 戻ってきたんですね! そうです! 全部僕が第一位階魔術でやったんですよ!?」


するとセビアは少しどや顔をしながら、ない胸を全力で張って、どうだ! と言わんばかりの視線をギルに向ける。


「……やりすぎだ。それにしても……合計何発放った?」


「合計ですか……? 数えてませんが大体60くらいだと思います」


60発、これは使用した魔素量で言えば、第五位階魔術相当である。少なくとも、ギルがセビアから感じてい魔素量からすれば、到底考えられないものだ。せいぜい第四位階魔術程度だった。もし仮に、これでセビアが死にかけであれば理解はできる。実際に生命力を代償に足りない分の魔素マナを補うことはできる。例えば、戦略魔術と呼ばれる、莫大な魔素マナを消費する魔術では、足りない分を奴隷の命を使って代用したりするものだ。


「体は怠くないのか?」


見た感じ無事そう……と言うか元気そうではあるが、未だ信じられないものを見たかのような目を向け、セビアに問う。


「全然問題無し、ですよ! ……ところでその目はなんですか? なんかありました?」


どうやらセビアでも分かるほどに酷い目をしているらしい。何はともあれ、これは本格的に教えたほうがいいだろう。それにもしかしたら……とギルはある人物の顔を思い浮かべていた。


「そうか……合格だ。気が変わった、最初は適当に流すつもりだったがしっかりと教えてやる」


「え? 見せなくてもいいんですか? というか流すつもりだったってどういう事ですか!? ちょっと! 何か答えて下さい!」


ギルはセビアの文句を全て無視して己の思考に入り浸る。


(第一位階魔術とはいえ60発近く……それもあの威力のものを放って魔素マナ切れにならない……よほど魔素マナ容量が多いのか?)


そう思考したが、すぐに否定する。魔素マナ容量に関してはギルから見てもセビアにはそこまでない。とても第一位階とは言え魔術を60発近く放ってケロッとしていられるほどではないのだ。

 おそらくは魔力があった、と言うことだろう。どのような魔力かもおおよそ検討はつく。


「聞いてるんですか!? 貴方って人は……」


思わずし思考にふけってしまったことで、セビアの方への注意をおろそかにしてしまったらしい。こちらの顔をつかみ、強制的に自分の方を向かせてから、頬を膨らませて怒りの表情を示した。仮にも魔物、それも悪魔デーモンを相手によくやるものだ、と感心する。最も、セビアもほかの魔物には同じようなことはしない。他ならぬギルだからこそだ。つまるところ、ギルへの信頼である。


「ああ、すまないな。あと俺の名はギルだ。これからよろしく頼む。ところで一つ聞きたいんだが、今まで魔術を使いすぎた怠くなったりした事はあるか?」


「? いえ、一度もありません」


「……そうか、変なことを聞いて悪かったな、続きは明日だ。今日は帰れ」


「は、はい……」


ギルに帰れと言われた瞬間、セビアは露骨に落ち込む。


「あー……そうだな、街の案内でもしてもらえるか?」


「……! はい! 僕に任せて下さい! ギルさん、早く行きましょう!」


ギルの言葉を聞いた途端顔に笑顔を浮かべ、ギルの手を引っ張り森を走っていく。


「……街を案内ってどうすればいいんですか!?」


「いや俺に聞くなよ」


「僕友達いなかったしいつも家に直行だったので街のこと全然知らないです……」


先ほどとは対照的にテンションが下がっているのを目に見えて感じる。


「はぁ……お前がよく行くところはどこだ? そこへ連れて行け」


「随分偉そうですね……それに僕はセビアって名前があるのです! セビアって呼んで下さい!」


「いいから連れてけ。知識を入れるという点でも本を読むのは大事だからな」


「そうですね……あ! これなんてどうでしょう! 我輩は犬であるって言うんですが……」


セビアはギルに次々と本を紹介していく。


「その中で僕のお気に入りのセリフがですね! 『月が綺麗だな』って言うのなんです! これ、愛の告白なんですよ? いつか言われてみたいものです! ……まあ言われる相手なんていないんですけどね……」


「急にネガティブだな。まあそれはいいか、色々と聞きたい。他におすすめはあるか?」


先程まで沈んだ目をしていたセビアは再び目をパッと輝かせる。


(忙しい奴だな……しばらくは付き合ってやるか)


この後、およそ3時間に渡って本を紹介され、ギルは少しだけ後悔した。

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